祖父・岸信介に安倍首相は何を学んだのか 祖父を反面教師にできるのか?

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安倍首相は2020年の夏季オリンピックの東京招致を重要な国家戦略と位置づけているらしい。

開催都市を決定する今年9月のIOCブエノスアイレス総会に自ら出席して招致運動を展開する意向で、直前に開かれるロシアでのG20首脳会合を途中で切り上げる方向で検討中、と新聞が報じている。偶然だが、実は前回の1964年の東京オリンピックの開催決定は59年のIOCミュンヘン総会で、安倍首相の祖父の岸元首相の時代だった。

6月26日で就任から半年だが、東京都議選も完勝で、安倍首相はいまも好調だ。弱体野党のせいもあるが、再登場までの周到な準備が奏効している。第1次内閣の失敗から教訓を読み取ったり書物から学んだりして自己研鑽を重ねたという。

「政治の師」と仰ぐ祖父の『岸信介回顧録』『岸信介の回想』『岸信介証言録』などの「岸語録」も熟読したようだ。中でも原彬久編『岸信介証言録』に出てくる「大衆に追随し、大衆に引きずり回される政治が民主政治だとは思わない。民衆の二、三歩前に立って民衆を率い民衆とともに歩むのが、本当の民主政治のリーダーシップ」の部分は何度も読み返したのではないか。

岸元首相は在任中、その姿勢で日米安保条約改定を実現した。その頃、オリンピック招致にどれだけ熱心だったのか、招致決定時の官房長官の赤城宗徳氏などに取材したことがあるが、「岸さんとオリンピックの関係? 記憶にないね」という回答だった。首相秘書官を務めた和田力氏も「岸さんは安保、安保で頭がいっぱいだった」と振り返った。

安倍首相は祖父の「未完の夢」の憲法改正に挑む構えだが、「民衆の二、三歩前に立って民衆を率い」という姿勢を見習って改憲に邁進するのだろうか。祖父と違ってオリンピック招致にも熱心だが、「安保に死す」で終わった岸氏を反面教師に、オリンピック熱を巧みに利用して改憲を実現する作戦かもしれない。

それともオリンピックを所得倍増政策に活用した次の池田元首相を手本に、脱デフレのアベノミクスの達成を図る計画なのか。

(撮影:尾形文繁)

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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