日本銀行の「異次元緩和」リスクは大きい ペンシルベニア大学ウォートン校教授 フランクリン・アレン

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──世界金融危機の原因の1つとして、グリーンスパン前FRB(米国連邦準備制度理事会)議長の時代の金融緩和政策が批判されていたはずです。

中央銀行は、不動産市場に当時何が起きていたのかを総括していないし、自身の責任についても語ってこなかった。民間セクターの貪欲さのせいにしてきた。

そして今、当時とまったく同じ政策を、もっと大規模に行っている。この現状を私は非常に心配している。量的緩和の結果、資産価格にはひずみが生じ、将来に向けて問題を蓄積している。今は先進国の株価が高騰しているが、その一方で、実体経済を見れば、成長率は高いどころか、低くなっている。新興国ですら決して成長率は高くない。高騰する株価と実体経済の乖離そのものが、問題が蓄積していることの証左だと思う。資産価格が下落したら問題が表面化する。

──確かに、先進国の潜在成長率は低下し、日本はデフレで、欧米でもディスインフレ傾向が強まっています。

中央銀行関係者は理解していないが、これは量的緩和の帰結なのではないか。日本は金融政策や財政政策を通じて低成長とデフレから脱却しようとしてきた。だが、むしろ状況は悪化してきた。

長期の金融緩和が競争を阻害

思うに、非常に金利が低い状態が長く続くと、企業は競争しなくなる。株主や債券投資家から高い収益還元を要求されなくなるので、経営を効率化する必要も、難しい戦略をあえて追求する必要もなくなる。そのため日本企業の競争力は低下してきた、と見ている。

米国でも企業が投資を躊躇しており、似通った状況になりつつある。

金融政策はせいぜい数カ月の危機に対応するためのものであり、6年も続けるのは理にかなわない。もっと市場に任せるべきだ。深い景気後退を甘受すると、銀行や企業が破綻し、失業者は増えるが、短期で回復に向かい、雇用も戻ってくる。金融緩和を5年も10年も続けると、資金配分が歪み、非効率的となり、それが経済に埋め込まれてしまう。大国の中で、日本がわずか数年で最も高成長の国から最も低成長の国に転落したのはなぜか、という問いは非常に興味深いものだ。

──新興国までもが低成長となっている理由は何でしょうか。

ブラジルがよい例で、先進国が金融緩和で低金利となり、新興国に多くの資本が流入した。ブラジルの通貨レアルは高くなり、製造業の競争力は失われ、不動産価格は2年で70%も高騰した。非常に悪い状況だ。今の国際金融体制では、先進国が大きな力を持ちすぎている。変革しなければならない問題だ。

(撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2013年6月15日

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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