OPECが環境に貢献? 高価格が暗示するもの−−ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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1次産品価格上昇が発するメッセージ

一部の政治家は、投機家が発展途上国の需要が供給を上回って増加するという可能性に賭けて、1次産品市場で頻繁に取引をしていることに苦言を呈している。しかし、それは悪いことなのだろうか。もし次の世代も1次産品をもっと必要とするようになると判断して、投機家が現在の1次産品の価格を引き上げているとしたら、それは健全なことである。1次産品の価格が現在高くなることは、将来の世代のための供給を増やす一方で消費を抑制する新しい方法を開発する誘因を生み出すことを意味するからだ。

世界的な1次産品ブームは、貧困に対して深刻な影響をもたらしている。1次産品の価格上昇は、貧しい農家、そして資源は豊富だが貧しい国を助ける一方で、所得の半分以上を食費に費やしている都市の貧困層に著しい打撃を与えている。

この問題に対する解決策の一つは、非常に貧しい人々に対して食料品価格の上昇分を補填することだ。長期的には、自給自足を促進するために農家に対して肥料などの支援をすることも重要である。世界銀行と国連、またブッシュ政権はそうした支援に動いている。ただ問題の大きさと比べれば、そうした対策はあまりにも規模が小さい。資源が豊富なアフリカ諸国で経済改革がアジア諸国と同じペースで進めば、1次産品に対する需要が増大して、1次産品価格の上昇の時代は次の世紀まで続くかもしれない。

各国政府は1次産品の価格上昇について愚痴をこぼすのではなく、最も貧しい市民を保護すると同時に、価格上昇を私たちに対する警鐘としても利用すべきである。欧米社会の消費主義は今後も続くだろう。そこへアジアなどの発展途上国が世界の消費のパイのより多くのシェアを要求し始めている。1次産品価格の上昇とは世界経済の大きな調整の必要性を示す警告なのである。

現在の世界経済のブームが終焉したとき、1次産品価格はたちまち25%、場合によっては50%以上急落する可能性がある。欧米の政治家はこうした1次産品の価格急落を歓迎し、発展途上世界の非民主主義国家に流入する資金が減ることに安堵するかもしれない。

しかし1次産品の高価格の時代が終わったとしても、それは忘れてしまうべき単なる悪夢ではない。高価格は国際化する世界で発生する1次産品の不足に対する深刻なメッセージなのだ。市場の力を阻害することでそのメッセージを無視しようとする人々は、悲劇的な過ちを犯しているのである。

ケネス・ロゴフ
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。

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