朝井リョウさん、就活って「何者」ですか? 直木賞作家が描く、就活のリアルと本質

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――就活では何が一番大事だと思いますか?

自分がいうのもなんですが、一番は文章力だと思います。言葉を扱う力、ですね。集団面接で他の人の話を聞くことがありましたが、面接の受け答えで主語と述語がねじれている人が多くいました。その場で文章を組み立てる能力は、すぐにわかりますよね。エピソードはいいのに、文章がへたくそで、「なんとなく言いたいことはわかりました」という感じで終わってしまう人はすごくもったいないと思います。

今までやってきたこととか、会社に入って何をやりたいかなど、結局、就活生は同じ事を話している。その差し出し方がうまいかどうかが勝負だと思います。たとえば本を読んでいるときに「低い声」と書いてあるのと、「床を這うような声」と書いてあるなら、僕は後者の方が印象に残る。「低い」という言葉を使ってないのに、「低い声」と書くより低く感じるわけです。言っていることは同じなのに、差し出し方を変えるだけで印象の残り方がまったく違うというのを、本を読んでいても思いますし、面接を受けているときにもすごく思いました。

就活で一番大事なのは文章力

2012年に刊行された『何者』(左)のアナザーストーリー6篇を収録した『何様』(右)を今年の8月に刊行

――作品の中では「内定ってその人が全部まるごと肯定されている感じ」という言葉がすごく印象に残っています。

就職活動って、総合十種競技みたいに思われているかもしれませんが、僕はひとつの競技にすぎないと思っている。それこそ「差し出し方選手権」みたいなものです。教科のひとつといえばいいのかもしれません。「国語・算数・理科・社会・就活」みたいな感じで、たったひとつの能力だけが問われているのに、人間のすべてが問われているみたいに思われ過ぎているのがよくないところだと思います。

高校までは、全員同じカリキュラム、同じテストで順位付けがされますよね。だけど大学に入るとそれがなくなり、受ける授業を自分で選ぶようになる。テストも、百点満点の形式のものが少なくなり、明確な点数が出なくなります。高校時代は科目に点数がついて数値化され、自分が学校の中でどのあたりにいるのかがよくわかりましたが、大学に入るとそれがいったんなくなります。しかし就活では、何社内定がとれたとか、大企業の内定が出たとか、人としての能力があるひとつの条件で測られる感覚が急に舞い戻ってくる。競争心と闘争心みたいなものは潜在的に備わっているので、久しぶりに現れた全員共通ルールのレースに、何かがヒートアップしてしまうんだと思います。

――企業ごとに選考基準があって絶対的な基準はない、というのはなかなか理解されない。

そうですね。

――やはり、「いい企業にいった」というのがそのまま評価されている。

あると思いますね。そう考える人が多いのではないでしょうか。

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