残念!それでも世界は「村上春樹」が大好きだ ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞!

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読者と村上さんとの作品を通じた言語化されないやりとりは、非常にスリリングでプライベートであり、世界中の読者は「この人は自分のために書いている、自分の心の中にあるものを理解している」と思うようになる――そして私もそうであったように、人はいつしか村上春樹に魅せられ、熱狂していくのだと思います。

村上さんの作品を読むと、多くの人が自分の心の奥底にある、人としての真理と普遍性に向き合うという経験をします。その経験は文学的というよりも、もしかしたら「宗教的」と言えるプロセスに近いのかもしれません。

 「村上作品」が持つ神秘性

『村上春樹と私』は11月11日に発売予定。アマゾンで予約を受け付けています(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

宗教とはご存知のように複雑です。村上さんの作品も当然これだけ多くの言語で読まれているわけなので、読者には仏教徒、キリスト教徒、イスラム教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、儒教徒、無神論者など無数の他の者たちが含まれているはずです。しかし彼の作品は、相容れないはずの異なる宗教の垣根を飛び越え、すべての宗教が共有する「深遠な経験」を読者にもたらすのです。私はそれこそが、彼の作品のもつ「神秘性」なのだと思います。

宗教は往々にして人生の意味を教条的に主張し、客観的な証明もないのにその意味を押し付けています。ですから信徒たちは説明できない神秘性に意識的にまたは無意識に出会わなければなりません。そしてこの「神秘性」は、どの宗教にも存在します。村上さんの作品は、この世界を圧倒する「神秘性」という名の不可解をそのまま受け入れているのです。

作品に死や悲しみが存在したとしても、積極的な人生に対する姿勢を作品を通じて読者に委ねる――新しい経験、知識、そして愛――読者が村上作品から得るのは正に、「生への希望」なのだと思います。
 

ジェイ・ルービン ハーバード大学名誉教授
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