物価上昇率2%の日銀シナリオを検証する 景気・経済観測(日本)

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日銀は潜在成長率を上回る成長が3年続くと見ている

展望レポートでは、「潜在成長率は見通し期間の平均で0%台半ば」としており、2年続けて潜在成長率を2%前後上回る成長を続けた後、3年目も潜在成長率を1%程度上回る見通しということになる。展望レポートでは見通しの前提条件が詳細に示されていないが、様々な条件が揃わなければ、このようなシナリオが実現することは難しいだろう。

期待インフレ率が、日銀が想定しているとおりに、短期間のうちに大きく上昇するのかという問題もある。前述したとおり、フィリップス曲線から考えると、日銀の物価見通しは見通し期間の前半には期待インフレ率が大きく上昇することを想定していることが推察される。しかし、日銀自身が認めているように、15年近くにわたってデフレ状態が続いてきた日本では、企業や家計の期待インフレ率の動向については不確実性が高い。

展望レポートでは、「市場参加者やエコノミスト、家計を対象とした調査からは中長期的な予想物価上昇率の上昇を示唆する指標がみられる」としている。確かに、日銀が2%の物価目標を掲げ、異次元の金融緩和を実施したことを受けて、1年後の物価上昇を予想する家計の割合はこのところ急速に上昇している。しかし、家計の期待インフレ率は少なくともこれまでは、足もとの物価動向に大きく左右される傾向が強い。インフレ期待の高まりが実際の物価上昇につながるかは不透明だ。

このように、2年で2%の物価目標を達成するためのハードルは相当高い。今回の展望レポートの見通しは、蓋然性の高い見通しというよりは目標に近いものと考えられる。

斎藤 太郎 ニッセイ基礎研究所 経済調査部長

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さいとう たろう / Taro Saito

1992年京都大学教育学部卒、日本生命保険相互会社入社、96年からニッセイ基礎研究所、2019年より現職、専門は日本経済予測。日本経済研究センターが実施している「ESPフォーキャスト調査」では2020年を含め過去8回、予測的中率の高い優秀フォーキャスターに選ばれている。また、特に労働市場の分析には力を入れており、定評がある。

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