デフレ長期化は企業の技術革新を阻害する 「物価」の専門家、東大・渡辺努教授が分析

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わたなべ・つとむ/1982年東京大学経済学部卒、日本銀行入行。92年ハーバード大学 Ph.D.(経済学専攻)。99年一橋大学経済研究所助教授、2002年同教授 、11年10月より東京大学大学院経済学研究科教授。主要な研究テーマは「物価」と「金融政策」。「物価」についてはPOSデータやオンライン価格データなどのミクロ価格データを用いて価格硬直性の原因を解明する研究を2006年から行い、「東大日次物価指数」の作成で知られる。目下の関心はわが国の長期デフレの原因の解明(記者撮影)

――いったんプラス圏に浮上した消費者物価は、足元マイナス圏に沈んでいます。異次元緩和の効果はあったのでしょうか。

異次元緩和の始まる前はデフレだったが、異次元緩和とともにマイナス幅が縮小し、2014年3月くらいにかけてと、15年10月くらいにかけて、2回にわたって物価は浮上した。

足元の物価はゼロか若干のマイナスなので、そこだけみると芳しくないが、効果があったかなかったかと言われると、私はあったんだろうと思う。

この2回の上昇局面を引き起こしたのは円安だ。いま物価が下がっているのは、中国経済の問題やブレグジット(英国のEU離脱)など外的なショックもあるが、なんといっても消費が弱いことが大きい。2015年春から夏にかけて、多くの企業が強気になって商品の値段を引き上げた。ユニクロが典型的だが、その結果何が起きたかというと、お客さんが来なくなった。足元ではもう一度お客を呼び戻すために特売や元の安値で売るようになっている。

では、なぜ消費が弱いのか。これは多くの人が指摘するように、賃金が上がっていないことが根本にある。春闘で多少の上昇があったといっても、十分ではない。私が懸念しているのは、企業の人たちが一度は政府・日銀の話にのって価格を引き上げてみたが、結果的に駄目だったことを学習した。そうすると、もう一度やる気にならない。物価がどんどんマイナスになるとはいわないが、緩やかなデフレかゼロ近傍でズルズルする状態が今後しばらく続くのではないか。

デフレ長期化で企業の価格支配力が低下

――緩やかに物価が下がるのはまずいことなのでしょうか。

無理をして2%の物価目標を掲げなくてもよいのではないか、など、この点はいろいろな議論がある。

グローバルにみてどの先進国も2%の物価目標を目指している。2%の根拠の一つは、あまりに低すぎると政策的に金利を下げる余地がなくなるからだ。いわゆる「のりしろ」論だ。また、(実際よりも物価指数が高めに出てしまう)消費者物価指数の計測誤差の問題もある。

米国も含め、2%の目標をどの国も実現できていないことは事実だが、日本だけが1%や0%の目標を掲げると、その差の分だけ明示的に円高を容認していると表明したことになる。その結果円高が進み、景気にとってもよくないだろう。

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