32歳高年収女子は、なぜ結婚できないのか 東京カレンダー「崖っぷち結婚相談所」<1>

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みずきは背筋をピンと伸ばした姿勢で、毅然とした態度を崩さない。彼女は結婚に無関心である自分に、選民意識すら持っているのだ。

美貌とキャリアを手にした女。しかし満たされない女心

杏子はプライベートの不調は否めないが、仕事は大好きで楽しいし、やりがいも感じている。そして周りからは、美貌とキャリアという、天が二物を与えた女だと崇められることはしょっちゅうだ。

しかし、他人の目には華やかに映るかも知れない杏子の生活は、実は寂しさに満ちていた。一人深夜に仕事を終え帰宅し、真っ暗な部屋に電気を付けるとき。何の予定もなく、ジムやエステに行って一人帰宅し、簡単な料理を作って寝るだけの単調な休日。

天が与えてくれたかもしれないその二物だけでは、結局心の寂しさは埋まらない。「結婚」という形にこだわるわけではないが、夫という一人の男に愛され必要とされ、そしてプロポーズされる女たちが、杏子はただ羨ましかった。自分はどうしてそういった存在になることができないのか。そんなことを考えると、心の柔らかい場所が何かにグサリと刺されたように痛む。

思い切って何件かの資料ボタンをクリックしました

しかしこんな弱音を他人に吐く事は、杏子のプライドが許さなかった。自分の弱い心を守る唯一の術は、みずきと同じように「結婚を敢えて選ばない自分」を装うことだった。そうすることで、寂しく惨めな自分と向き合わずに済むのだ。

「聞いてよ。会社の38歳の女の先輩がね、急に電撃婚をしたのよ。突然どうしたんですかってコッソリ聞いたら、実は結婚相談所に登録して、そこで婚活に励んでたんだって。それってよっぽど困ってたのね。私には信じられないわ。」

みずきと波長を合わせ、杏子は高らかに笑ったが、頭の中では冷静にアンテナが動いていた。

――結婚相談所なら、その先輩みたいに誰にもバレずに要領よく結婚が出来るの……?

杏子は帰宅後、仕事さながらにネットで結婚相談所の調査を始めた。まずは資料請求だ。とにかくいくつかの業者から資料を取り寄せ30分ほどデューデリジェンスすれば、おのずと相場が分かるはずだ。天が二物を与えた女が、夜中に一人結婚相談所のウェブサイトを物色するなどという光景を冷静に考えると、また杏子の哀しいプライドが疼いた。

いや、でも誰にもバレなければいいだけだ。誰にも内緒でコッソリと事を進めればいい。杏子は邪念を振り払い、思い切って何件かの資料ボタンをクリックすることに成功した。

―次回、杏子はとうとう結婚相談所に足を運ぶ……?!

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