「若者の○○離れ」批判は根本からズレている オジさんには見えない5つの前提変化とは?

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最後は、消費や生活の選択肢・情報量の激増です。シンプルに言えば「やること・やれることが膨大に増えたので、1つ1つの存在感が下がった」ということ。2010年のIDCのレポートによれば、全世界の情報流通量は2020年には年間35ZB(ゼタバイト:10の21乗)に達することが予想されています。それは、人類誕生から2000年までの総人類が残した、全ての記録データである12EB(エクサバイト:10の18乗)の約3000倍の情報量が、たった1年間で飛び交うことを意味します。

供給側としては、以前と変わらない声の大きさで呼びかけているつもりでも、世の中がインターネットでつながってしまった後に生まれた若者からすれば、聞こえにくいのは当たり前。「意図して離れて行っている」以前に、「アタマをよぎりもしていない」ことも少なくないのです。

5つの代表的な「正体」をあげましたが、通底するのはやはり「前提の変化」。“かつての当たり前”の中で若者として生きた常識を、“これからの当たり前”を生きる今の若者に当てはめようとすること自体にいろいろなところで無理が出てきているわけです。要するに、“大人の理屈”が新しい時代からズレてきているということです。

大人が若者から離れているだけ

すべての大人たちは例外なく、「かつての若者たち」なわけで、だからこそ自分たちがその年ごろだったときの「当たり前」に当てはめて今の若者を考え、それに著しく当てはまらない現象について、「けしからん」とか「意味が分からない」と判断してしまいがち。そしてその結晶物が「若者の○○離れ」という言葉だとすると、ことの本質はその言葉の中にはないように思います。

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「○○離れ」というレッテルを貼って分かった気になってしまうと、単に若者に離れられてしまうだけでなく、“これからの当たり前”ともいえる新しい考え方や価値観へのシフトができず、気づけば「OSの古いPC」みたいなオジさん(やオバさん)になっているかもしれません。

以上、見てきたとおり、「若者の○○離れ」の背景には、「大人の若者離れ」が潜んでいる可能性が大きいでしょう。「最近の若いやつらはどいつもこいつも理解できない・・・」なんて言っていたら、ズレは「時代と自分自身」の間に広がっていたという恐ろしい話になりかねません。自分は変わらずに変化から「逃げ切る」という言葉すら出てきた昨今ですが、「若者の○○離れだ」と感じることが起こったら、その言葉だけで終わらせず、その正体を考えてみると“次の当たり前”への気づきや、新たな自分自身の可能性が得られるでしょう。

吉田 将英 電通若者研究部(電通ワカモン)研究員、 プロジェクトプロデューサー

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よしだ まさひで / Masahide Yoshida

1985年生まれ。2008年慶應義塾大学卒業後、前職を経て、2012年電通入社。戦略プランナー・営業を経て、現在は経営全般をアイデアで活性化する電通ビジネスデザインスクエアに所属し、さまざまな企業と共同プロジェクトを実施している。また、「電通若者研究部(電通ワカモン)」では、研究員として10代~20代の若者の心理洞察から、共同プロジェクト開発まで幅広く従事。著書に「仕事と人生がうまく回り出すアンテナ力」(三笠書房・2019年)、「なぜ君たちは就活になるとみんな同じようなことばかりしゃべりだすのか」(宣伝会議・2014年)、「若者離れ」(エムディエヌコーポレーション・2016年)

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