電子部品産業、「紛争鉱物」対応に苦心 鉱物調達先の明確化が求められる

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「納入先の米国上場企業からの調査依頼が増えており、今では月数十件ペースになっている」(大手電子部品メーカー)。取引を行う電子部品メーカーは、紛争鉱物の調達先の開示を求められるようになった。特にタンタルコンデンサーなどに使用されるタンタルは、DRC周辺地域での産出が全体の15~20%を占める。また、DRC周辺地域の産出比率が5%とそれほど高くないスズは、はんだやメッキなど幅広い製品で使われていることから、多くのメーカーが対応に追われている。

電子部品メーカーの業界団体である電子情報技術産業協会は、紛争鉱物対策のプロジェクトチーム「責任ある鉱物調達検討会」を設立。この検討会には、アルプス電気、オリンパス、キヤノン、京セラ、村田製作所、シャープ、ソニー、TDKなど30社以上が加盟している。納入先への報告フォーマットの統一化などの話し合いを行っている。

しかし、各社の取り組みの進展はまだら模様だ。ある大手部品メーカーは「全製品の調査を完了していないため、問い合わせに対して確定的な回答はできない状況だ」と取り組みが思うように進んでいないことを認める。紛争鉱物規制対応の支援を手掛けるKPMG BPAの井口耕一取締役は「鉱物の調達先が明確でない部品メーカーとは取引を行わないと表明している米国企業もあり、この問題への対応が不十分であれば失注につながるおそれもある」と、警鐘を鳴らす。

不買運動のリスクも

重要な点は、紛争鉱物は今後、ますます大きな問題に発展する可能性があることだ。

紛争鉱物は米国務長官の判断により、対象鉱物・地域が追加される仕組みになっている。そもそも希少資源はアフリカ、中東、中央アジアなどの紛争地域に集中している。リスク管理のためには、4鉱物以外についても、トレーサビリティを確保しておく必要がある。

人権侵害などに対する投資家や消費者団体の監視の目も厳しくなっている。米国ではNGOや消費者団体もこの問題について積極的な活動を展開している。人権団体のイナフ・プロジェクトは、消費者向け製品を製造するメーカーの紛争鉱物への取り組みを毎年点数化し発表しているが、昨年の同団体のリポートでは、家庭用ゲーム機の任天堂が紛争鉱物の対策が遅れているとして批判を受けている。

放置をしていれば不買運動などに発展する可能性もある。紛争鉱物を重要な経営課題としてとらえなければ思わぬやけどを負いかねない。

週刊東洋経済2013年4月13日号

島 大輔 『会社四季報プロ500』編集長

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しま だいすけ / Daisuke Shima

慶応義塾大学大学院政策メディア研究科修士課程修了。総合電機メーカー、生活実用系出版社に勤務後、2006年に東洋経済新報社に入社。書籍編集部、『週刊東洋経済』編集部、会社四季報オンライン編集部を経て2017年10月から『会社四季報』編集部に所属。2021年4月より『会社四季報プロ500』編集長。

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