ホーム転落事故は「駅員増員」だけで防げるか 安全施設も普及進むが、利用者の協力も必要

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ホームに駅員がいると安心感は高いが、それだけでは事故を防ぎきれていないのが現状だ(写真:ph-hiro-ph / PIXTA)

ホームに駅員がいたほうが安心感はあるが、ホーム上は必ずしも見通しがいいわけではなく、人間の目が全体に行き届くわけではない。転落者がいたとしても、すぐに発見できない可能性もある。そこで、人間の目の代替機能となり、万が一の際に機械的に確実に列車を停めることのできる設備の充実が進んできた。

だが、これらの設備は基本的には「転落を素早く発見し、列車を停める」ことが主な目的で、転落自体を防ぐ設備ではない。列車がホームに進入してきた際に転落したとすれば機械があっても駅員がいても対応は間に合わない。国交省の資料でも「ホームから転落して接触した人身障害事故は、非常停止ボタンの整備等の対策が進められているものの、減少までには至っていません」と説明している。

列車などとの接触を伴わないホームからの転落は2014年度に3673件発生しており、全国で1日に10件程度は発生していることになる。このうち視覚障害者の転落は80件だ。視覚障害者にとって、駅のホームは「欄干のない橋」と形容されることもある空間だ。これ以上の転落防止に向けては、やはりホームドアの設置拡大といった、根本的に転落を防ぐ設備の普及が望まれる。

利用者も事故を防ぐ力になる

だが、ホームドアの普及がまだそれほど進んでいない現状で、ホームからの転落や接触事故を防ぐにはどうすればいいだろうか。鉄道会社側の努力はもちろんだが、利用者の心がけによっても事故を減らすことはできる。

私たちもホームから転落する人を見ることがあるかもしれない。その場合にはどう対処すべきか。「転落した人を発見した場合、あるいは危ないと思った場合は、ホームにある非常停止ボタン(列車非常停止警報装置)を押してください。転落したお客さまは駅係員が救済するため、ホーム上のお客さまは絶対に線路内に下りないでください」とJR東日本はいう。

事故を防げるのは駅員だけではない。視覚に障害のある人がホームから転落しそうな場合などに声をかけることは誰にでもできる。さらに、万が一の際には非常停止ボタンもホーム上にある。本当に必要な時には押せるよう、われわれも日ごろ利用する駅などではどこに非常停止ボタンがあるかを確認しておきたい。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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