「りゅうちぇる」が一気にブレークした理由 あらゆるキャラを兼ね備えたTVモンスター

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そんな中で、りゅうちぇるは彼女であるぺこのことを堂々と「好き」と公言してみせる。そして、何の照れもなく、テレビを通じてその感情を発信している。まさにここが革新的だった。おそらく、りゅうちぇるにとって、恋愛とはただの日常。恋愛感情は隠すようなものではないし、恥ずかしがる必要はどこにもない。それが、同じ感覚を共有する若い世代には親近感を与えるし、上の世代には物珍しさと目新しさを感じさせるのだろう。りゅうちぇるは日本人男性の恋愛観を塗り替えようとする革命戦士なのである。

キャラを作っていることは公然の事実

モデル、隠れイケメン、ハイトーン・ハイテンション、オネエ系、そしてカップル。テレビに出るときに有効なあらゆるキャラの要素を兼ね備えているりゅうちぇるは、現代が生んだテレビモンスターだ。さらに言えば、彼がタレントとして優れているところは、自分がある程度は意図的にキャラを作っているということも認めて、それをネタにしていることだ。

たとえば、彼は「ちぇるちぇるランド」出身ということを公言しているが、そこをしつこく突っ込まれると弱気になったり、すぐに開き直ったりする。その出身地のことも「設定」と自分でこぼしていたこともあった。りゅうちぇる人気の火付け役となったさんまも、彼のことについて「何年も試行錯誤してあのキャラになった」という趣旨のことを語っていたことがある。

いわば、りゅうちぇるがテレビ向けにキャラを作っていることは公然の事実。そして、そのことを彼は隠そうとしない。絶妙に素直で正直なのだ。『しゃべくり007』に出たときには、テレビのギャラをどのくらいもらっているのかと問い詰められて、「思っていたより意外に普通にやっぱり、人生うまくはいかないなって思う値段」と答えていた。

「キャラを作っている」と公言して、あえて隙を見せているというのも、キャラで売れるためには重要な要素だ。ひとつのキャラがそのままずっと通用するほどテレビは甘くはない。奇抜な設定を乗っければ、それが共演者の芸人などからのツッコミの集中砲火を浴びることは避けられない。むしろ、そのやりとり自体をうまく笑いに変えるしたたかさこそが求められている。

その点、りゅうちぇるは巧妙である。テレビにたくさん出ているうちに、コメント力にも磨きがかかり、空気を読んだ立ち居振る舞いができるようになっている。今後は、ぺことめでたく結婚して「夫」という新たなキャラを手に入れたり、オネエ系の要素を少しずつ薄めていったり、といったキャラのマイナーチェンジも考えられる。抱えている要素が多いりゅうちぇるは、その組み合わせや変化の可能性も無限に持ちあわせている。
 

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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