インドの中古車市場を「ゼロ」から創った男 日本を抜いて「世界3位」の自動車大国へ

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ではなぜ、同社はこうした「カオス」のような中古車市場で急成長できるのか。

まずはモバイルの力だ。インドでは、パソコンよりもモバイルインターネットが広く普及している。そこでまず同社は、モバイルアプリを開発、「モバイルファースト」(現在はPC経由も取引可能)で創業した。

アプリを通じて個人はもちろん、ディーラー(販売業者)もブローカー(転売業者)も、誰もが信頼して売買できる取引システム構築を目指した。ここが最初にして最大の難所だった。

同社は米国の先進事例も参考にしながら、インドの現実に引き直し、独自のシステムで取引の透明性を構築したのである。

ドゥルーム社が行った取り組みとは、具体的にどんなことか。それは世界最大である米国の中古車市場で当たり前になっていることと比べるとよくわかる。「米国の中古車市場ならおおまかにいって、以下の4つで中古車の取引が透明化されている」(アガルワル氏)。

すなわち①法律による事故歴などの公表義務付け②買い手保護のための諸罰則規定③買いたいと思った車の詳しい車歴を有料(7ドルから15ドル程度)で閲覧できる民間企業(米カーファックス社など)の存在④膨大な中古車取引の売買価格データベースを保有している民間企業(米キャリーブルー社など)の存在だ。

どうやって安全な売買ができるようになったのか

「インドの場合は、この4つが全てないに等しかった」(同)。ではどうしたのか。代表的なのが「オレンジブックバリュー」の構築だ。

 サンディープ・アガルワル氏(中央)と共同創業者でヴァイスプレジデントのリシャブ・マリック氏(右)は、ネットの力でインドの売り手と買い手双方から大きな支持を得る。左はBEENEXTの佐藤輝英氏(BEENOSのファウンダー)

いわば上記の「キャリーブルー社のインド版」を、ゼロから作ったのだ。簡単にいえばこんな具合だ。例えばいろいろなデータをとりながらビッグデータ化し、「トヨタの中古車(2年物)」なら、新車から2年が経過した時の「劣化指数」などを構築して行く。さらに、もし「町のディーラー」などに売っていたらとられる手数料なども標準化して価格に落とし込んでいく。

この「オレンジブックバリュー」の閲覧自体は無料ということもあり、同社が躍進するきっかけとなった。「自分の車はどのくらいの値段で売れるか」「買いたいあの中古車の値段がだいたいわかる」と人気になり、リリース初日からインドの人気アプリ「トップ20」にランクイン、今や1カ月で300万回も閲覧されているという。

また、売り手に車1台につき60項目のチェックポイントを答えさせて登録してもらう「信頼度スコア」も「見える化」に役立った。情報を多く登録すればするほどスコアが上がる仕組みになっているので、売る側はできるだけ多くの情報を登録する。

この際、前出のオレンジブックバリューによって、売り手はおおよその自分の車の価格ゾーンや、実際に過去落札した価格履歴などもわかるため、売り出し価格はリーズナブルなものに近づいて行く。

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