"宇宙ママ"、ゴールの見えない日々の越え方 新世代リーダー 山崎直子 元JAXA宇宙飛行士

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また、アメリカでは、どんどん進路を変えて、キャリアアップしていく文化が根付いているため、宇宙飛行士でも宇宙へ飛んだ後はほかの職種に転向していく人が非常に多いんですよ。

「宇宙に興味を持っています」とか「宇宙飛行士になりたいです」と声をかけて下さる人がたくさんいます。でも日本人で宇宙へ行った人は、1990年にTBSの社員だった秋山豊寛さんが初めて宇宙に行ったときから数えて9人だけ。2年に1人いるかいないかというペースです。

民間の宇宙飛行を広げたい

宇宙開発そのものが転機を迎えています。2011年にスペースシャトルが引退を迎えました。今後、もし月や火星に行こうと思ったら、遠くへは行けますが、それだけ宇宙に行ける人の人数は減ります。

日本人の宇宙飛行士は減るだろうというのが、私の予測です。こうした状況の中で、日本としてこれからの宇宙開発どうしていくか、考えなければならない時期にきています。

ほかの分野も同じかもしれませんが、宇宙開発ではエンジニアや研究者などいろいろな人がいますが、引率役のように自由に動けて、”つなぎ”となる人が足りない。

組織にいると、どうしても組織を代表せざるを得ません。組織の立場にとらわれない人は、これから宇宙の分野にも必要だと思います。今、内閣府の宇宙政策委員を勤めているのもそのためです。

――それは現役の宇宙飛行士という地位を捨ててもやりたいミッションだったのでしょうか。

そうですね。こういう想いになった理由のひとつは……やはり主人の影響ですね。彼は私が宇宙に行く前からずっと民間の宇宙を意識して、自分で会社を立ち上げるなど地道に活動をしてきました。主人だったり、彼を通じて宇宙にかかわっている人の意見を聞いたとき、そろそろ新しい視点が必要なのだろうという気がしました。

今までの宇宙開発の流れでは宇宙に行く人の数は増えないだろうし、門戸もあまり広がらない。今ここが転換期なので、門戸を広げる活動をしていかなければなりません。私は日本から宇宙へ扉を開いて行きたいと思っています。

JAXAやNASAなど政府系組織の宇宙飛行士以外にも、宇宙へ行くオプションは増えてきています。例えばサブオービタル飛行(弾道飛行)といって、アメリカの空港から飛び立ち、宇宙にいるのは5分、10分という短い時間ですが、また同じ空港に戻ってくるというものがあります。それだと1600万円ぐらいという値段で宇宙にいくことができる。

確かに値段は高いし、限られた人しか行けないかもしれない。ですが、そうやってスタートを切っていけば、飛行機と一緒で、だんだん値段は下がってきます。そうやって宇宙が身近になれば、私自身、宇宙にまた行く機会はあるでしょう。こうした分野でも、宇宙飛行士だったという経験が生かせると、今は考えています。

(撮影:風間 仁一郎)

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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