英国EU離脱で「欧州と世界」はどう変わるのか EU研究第一人者の北大遠藤教授が分析

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けれども、そうした内破シナリオが現前にあるわけではない。フランス大統領選は、第1回目で過半数が取れなければ2回目の投票がある仕組みで、通常、たとえ極右勢力が第2回目の投票に勝ち進んでも、左右の穏健中道勢力が多数で上回る。

2002年選挙では、2回目で中道右派のシラク大統領とジャン・マリ・ル・ペンFN党首(現在のマリーヌ党首の父)が戦い、シラクが勝利した。マリーヌの支持率は25~28%であることが多く、2017年初の大統領選では2回目に進む可能性が高いものの、多くがそこで敗退すると見込んでいる。ドイツでも、州レベルでAfDが票の4分の1を取った例はあり、2017年9月の総選挙でその躍進は確実視され、社民党の弱体化が懸念材料であるけれども、主要政党の連立によってその事態を乗り切るのではないかと予想されている。

また、もっとも欧州懐疑的な国の一つであるデンマークでも、イギリス国民投票をはさんで、EU加盟の支持率が59.8%から69%へと目に見えて増加した(フィンランドでは56%から68%へ)。

オランダにおいても、ウィルダース率いる反EU・排外主義的な自由党が興隆しているが、過半(53%)が国民投票に反対しており、150人の国会でイギリス投票後に出された国民投票動議を支持したのはたった14人だった。

その他、ハンガリーやポーランドなど東欧諸国における反EU勢力には留意が必要だが、これらの国がオーストリアなど他国と歩調を合わせてEU倒壊に向かう可能性は低く、仮にそうなったとしてもそうした勢力の伸長が同地域にとどまり、中枢にその影響が直接及ばない限り、そう大きな事態にはならない。

独仏に続いて重要度が高いのは、イタリアであろう。同国では、欧州懐疑主義的な要素を含む「五つ星運動」が2013年総選挙で単独政党としては第1党となり、その後も勢力を保ち続けている。これが、秋に予定されている上院改革に関する国民投票などを機に、さらに勢いづき、EUやユーロの加盟に関する国民投票を仕掛けてくるような事態は考えられる。またその際、ユーロ危機がイタリアの銀行危機に連動しているというシナリオも排除できない。しかし、それらは想定はできても、まだ可能性の高いシナリオではない。

基本シナリオは「崩壊」ではなく「再編」

こうして、特に独仏における政党政治が底抜けすると、EUが内破するというのがボトムラインであり、それが当面ありそうにないとすると、今回のイギリス国民投票はEU崩壊・瓦解でなく、再編をもたらすものとなろう。えてして、もうEUは終わったという言説が氾濫する時代である。そのことはここで確認しておきたい。

問題はその再編がどういう形を取るかである。基本を確認しておくと、EUは機能強化、集権化、つまり統合を必要としている。ユーロ圏においては銀行同盟が不完全で、財政統合にいたっては、各国財政の相互監視を体系化しただけで、共通予算や財務省(大臣)、財政移転などは共通通貨を中長期的に円滑に運営するのに必要なのに、実現のめどはたっていない。

域内で人の移動の自由を可能にするシェンゲン体制についても同様である。外から来る人を制御しないとそれは成り立たないが、域外国境管理の強化はまだ緒に就いたばかりである。また、域内で犯罪者やテロリストが自由移動するのを追跡・捕捉するのに、各国政府間の内務警察協力が不可欠だが、不十分なままである。

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