55歳郵便配達員に生活保護が必要な深刻理由 期間雇用社員を苦しめる正社員との賃金格差

✎ 1 ✎ 2 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 最新
拡大
縮小

一方、こうした動きに対抗したのかどうかは知らないが、日本郵政は2015年度から、新たな形態の正社員として、転居を伴う転勤はしないといった条件の「一般職」の採用を始めた。しかし、この一般職、福利厚生は現在の正社員並みになるが、基本給は低く抑えられており、中でも三田さんのようにキャリアが長く、比較的給与水準の高い期間雇用社員が転籍した場合、実質的な賃下げとなってしまう。

要は「無期化、福利厚生あり、賃下げ」か、「不安定雇用、福利厚生なし、現在の給与」か。どちらかを選べというわけだ。しかし、一部の期間雇用社員たちは現在の給与水準を、正社員以上の頑張りと我慢で手に入れてきた。三田さんは一般職の採用試験を受けるつもりはない、という。

今回、神戸市内の担当区域内にある居酒屋で話を聞いた。店内で、三田さんが別の居酒屋の女主人とあいさつを交わしていると、奥のほうから現れた恰幅のよい中年男性が「おつかれさん」と声をかけながら出て行った。「不動産会社の社長さんです。年賀はがきやかもめーるをぎょうさん買うてくれるお得意さんですねん」とうれしそうに教えてくれた。昔ながらの「街の郵便屋さん」は、営業も含めた仕事が大好きなのだな、と思う。

子どもと孫には同じ思いをさせたくない

「同じ責任で、同じ仕事をしているのだから、同じ人間として扱ってほしい」

三田さんは酒を一滴も飲めない。ウーロン茶のグラスを傾けながら、筆者に「定年も近い僕がどうして20条裁判に参加したかわかりますか」と聞いてきた。非正規労働者が実名で訴訟に参加することには不安もあるはずだ。答えを期待しているふうでもなかったので、沈黙で続きをうながすと、三田さんはこう続けた。

「子どもや孫の世代に同じ思いはさせられんと、思ったんです。何も正社員にしてくれと言ってるわけじゃない。同じ責任で、同じ仕事をしてる。だったら、同じ人間として扱ってほしい」

本連載「ボクらは「貧困強制社会」を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。

 

藤田 和恵 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT