「N-BOX」と「タント」超激戦の不都合な真実 現場は「禁断の果実」をなかなかやめられない

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業販店がどこまで影響しているかは定かでないものの、N-BOXとタントのケースでいえば、お互いの系列ディーラーがライバルに勝つために、通常の販売だけでなく自社届け出という武器を加えてデッドヒートしている側面はありそうだ。事実、筆者は少し前までN-BOXやタントの未使用中古車を地元の未使用中古車専売店で目にすることが多かった。

最近こそ少なくなってきたようにも見えるが、これは6月が第1四半期の締め月でもあり、夏商戦も後半戦に突入するので新車販売に特化したいために一時的に市場供給を制限しているのかもしれない。それにしても、もともと業販比率が極端に少ないホンダがダイハツの動きをかなり正確に追っているように見えるのは、業界をよく知る人間にとっては興味深い。

排気量やボディサイズなど規格が限定される軽自動車は、スタイルも含めた車種ごとの明確な差別化がなかなか難しい。「世間で軽自動車といえば、ワゴンRとムーヴぐらいしか車名がすぐに浮かばない」と言われるほど個々のキャラクターは希薄となっている。そのためテレビCMではテレビタレントを積極的に起用して、知名度アップをめざすのが軽自動車では半ば“お約束”となっている。

 

そして「販売台数トップ」というフレーズも販促効果が高いため、メーカー別、車種別、暦年締め、事業年度締めなど、さまざまなシチュエーションで販売台数トップ争いを激しく競っているのである。ワゴンRとムーヴといったかつてのドル箱同士、またそれと競合するホンダ「N-WGN」も各月の販売動向を見てみると、接戦が繰り広げられている。裏側には自社届け出も少なからずあるだろうと推測する。

業界全体の体力をむしばむおそれ

ただ、需要の先食いでもあり、新車ほどの利益が取れない自社届け出が跋扈(ばっこ)する状況は、日本の軽自動車メーカーにとって望ましいことではない。

「2015年度の全体需要が180万台だった。私も久しぶりに国内市場を見まして、1つ心配したことは、軽自動車が白モノ家電の二の舞になるんじゃないか」。燃費の不正計測が発覚する前のことだが、スズキの鈴木修会長はこう語っていた。

少し前まで絶好調だった軽自動車市場は、縮小に転じている。2015年度の軽市場は181万台と前年度から約36万台も減少。2015年4月に保有に課される軽自動車税が増税された影響は大きいが、スズキとダイハツの熾烈なシェア争いの中で、ディーラーの自社届け出が頻発し、大量の未使用中古車が発生した後遺症も指摘されている。

それでも鈴木修スズキ会長の言う「行儀の悪い売り方」を業界全体で是正していこうという流れにもなっていない中では、軽自動車の販売現場では自社届け出という「禁断の果実」に手を出すことをなかなかやめられない。それが業界全体の体力をむしばむおそれがあるとわかっていてもだ。

小林 敦志 フリー編集記者

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こばやし あつし / Atsushi Kobayashi

某メーカー系ディーラーのセールスマンを経て、新車購入情報誌の編集部に入る。その後同誌の編集長を経て、現在はフリー編集者。

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