「N-BOX」と「タント」超激戦の不都合な真実 現場は「禁断の果実」をなかなかやめられない

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メーカー別の販売台数を見ると、2015年度はダイハツが58万台とトップなのに、32万台のホンダに車名別で後塵を拝している状況だ。販売ネットワークが強大なダイハツやスズキに対して、ホンダは車種を絞り込んでブランド価値を高める戦略を採っているように見える。

 

かといって直近のタントがN-BOXに押されっぱなしというワケでもない。今年1~5月を振り返ると1~2月はタントがトップ。その後の3~5月はN-BOXが1位を奪い返しているが、台数ベースで見ると僅差になっていることも多い。たとえば2車種の差は2月が80台、4月305台、5月408台といった具合だ。

不都合な真実

ただ、毎月1万~2万台を売る2車種の差がここまで小さい月が頻発するのは、本当に自然な競争の結果なのだろうか。コンセプトや価格などが近いことから比較検討したうえで購入するユーザーは確かに多いはずだが、それだけでも片付けられない。裏側には複数の業界関係者が口をそろえる不都合な真実がある。

それは販売会社(ディーラー)が自社名義で新車の届出申請を行い、ナンバープレートを取得して新車販売に加算し、それを「未使用中古車」として中古車市場に流すという慣習の存在だ。業界用語で「自社届け出」とも呼ばれる。各メーカーのシェア争いの結果に起こっていることで、スズキの鈴木修会長が5月中旬の決算説明会の場において、「行儀の悪い売り方はやめなければならない」とコメントしたが、これは自社届け出による未使用中古車の流通を示唆していると受け取る業界関係者は多い。

日本の自動車販売業界は、系列ディーラーだけが新車販売のルートではない。「業販店」と呼ばれ、各系列ディーラーと新車販売で協力関係にある自動車整備工場や中古車販売業者などから新車を買っている人も少なくない。特に地方の軽自動車販売は地域に密着した業販店なくしては成り立たないと言われるほど、ユーザーをつかみその動向を把握している。

業販店は特定メーカー系列のディーラーとだけ取引があるワケではなく、たいていは複数メーカー系のディーラーと関係を構築している。「販売台数が決まってくる月末や暦年末、年度末が近づいてくると各ディーラーの担当者が業販店を回って、ライバルの販売動向を探り合う。そして負けられないというプレッシャーが自社届け出での上乗せにつながり、ライバルメーカー同士や競合車種同士で僅差の販売台数になる要因の1つとなっている。数年前はスズキ系とダイハツ系の間でその傾向が激しかった」と軽自動車の販売現場に詳しい関係者は解説する。

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