日産とトヨタの拡大戦略は一体何が違うのか 「ゴーン流」は多様な提携に活路を求める

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「電撃的」「電光石火」――。日産自動車と三菱自動車の資本業務提携をめぐる報道では、この言葉が連日枕詞のように使われた。

三菱自動車の燃費不正問題が発覚したのは4月20日。それからわずか3週間で、しかも不正の全容解明の途上で、日産が三菱自動車に対して2370億円もの巨額出資を決めたのだからカルロス・ゴーン社長の決断の速さには驚かないほうが不思議だが、これまで40年近く、競争の激しい自動車業界で成果を挙げてきた稀代の経営者からすれば、至極当然の経営判断だったのかもしれない。

軽自動車を守るには提携継続が不可欠だった

もともと提携の契機となった軽自動車は日産が三菱自動車から供給を受けていた。軽自動車のラインナップを強化したい日産と水島製作所(岡山県倉敷市)の稼働率を引き上げたい三菱自動車の思惑が一致し、2011年に軽自動車事業で合弁会社を設立。2013年に両ブランドで新型車を発売する。「デイズ」「デイズルークス」の2車種で日産の国内販売全体の約4分の1を占める稼ぎ頭にまで成長した。ゴーン社長自身も「軽自動車での提携は成功していた」と評価する。

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そこに今回の問題が起き、該当車種の生産・販売が中止に追い込まれた。日産は次期型の軽自動車から三菱自動車に代わって開発を主導するが、低コストで製造するノウハウを持っておらず、生産は引き続き三菱自動車が担うことになっていた。日産の国内販売で欠かせない存在の軽自動車を今後も売っていくためには、三菱自動車との提携を続ける必要性があった。

ただ、それだけであれば、三菱自動車の軽自動車事業のみ「居抜き」で買うなどすればよかったのかもしれない。窮地に立たされたとはいえ、三菱自動車も「手元資金には余裕があり、不正に関連する補償費用は賄える」(益子修会長)との認識だった。現状、三菱自動車は約4500億円(2016年3月末)の現預金を持っている一方、有利子負債は300億円程度しかなく、極めてキャッシュリッチでただちに資金繰りに窮する懸念はない。

日産自動車のカルロス・ゴーン社長は規模拡大路線を突き進む(撮影:今 祥雄)

にもかかわらず、資本業務提携にまで踏み込んだのはなぜか。それはまさしく、規模拡大路線をとるゴーン社長にとって三菱自動車の持つ可能性に「好機」を見出したからだ。

日産ルノー連合の世界販売台数は2015年に852万台、ルノーは欧州を地盤とし、日産は北米や中国で強い。ただ、今後成長が期待できる東南アジアでは両社とも弱い。インドネシアでは首位のトヨタが3割超えのシェアを持つなど日系メーカーの牙城だが、日産は5%台と存在感が薄い。三菱自動車は11%と日産を上回り、SUVの「パジェロ」やピックアップトラックの「トライトン」の人気が定着している。

日産もピックアップトラックで「ナバラ」を展開しているが、三菱自動車に比べると訴求力はいま一つだ。三菱自動車の持つ販売ネットワークや現地ニーズに合わせた商品開発力を取り込めれば、東南アジア攻略という積年の課題を解決できる。

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