トヨタ「ランクル」が没個性車にならない理由 武骨ながら絶大な信頼と安心が孤高をつくる

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ランクルを名乗る以上、過酷なシーンに送り込まれるのが前提であるし、電子制御が故障したから走れないという言い訳は許されない。世界の人々がランクルに絶大な信頼と安心を寄せているのは、妥協を許さぬモノづくりによるところが大きい。

実際にランクルに乗るオーナーにも話を聞いた。海外メディアが世界一の豪雪都市と発表して話題になった青森市に、筆者の義父が暮らしており、2世代前のプラドに16年間乗り続けているからだ。走行距離は14万kmに達している。

過酷な環境でも故障はほとんどない

他社のSUVからの乗り換えで、冬は積算で5m以上も雪が積もる豪雪地帯だから4WDは必須であり、仕事でもトヨタ車を使っているので、プラドにしたそうだ。最新の国内向けには存在しない3ドアのディーゼル車で、買い物から旅行まであらゆる用途に使っている。

「ものすごく頑丈だね。メインテナンスを入念にやってきたこともあって、故障はほとんどなく、消耗品の交換ぐらいで済んでいる。海釣りに行く時は、藪の中を走り抜けていったり、波打ち際まで寄せたりもするけれど、ハマりそうなところでもガンガン走っていける。錆びないこともありがたい。海に行くことが多いし、冬は凍結防止剤(塩化カルシウムや塩化ナトリウムなど)を撒くから。他のクルマはすぐマフラーが腐ってきたりするけどね」

義父の使い方がハードだと感じるかもしれないが、青森でランクルを選ぶ人は、多かれ少なかれこのような乗り方をしているという。アフリカとは違う意味で、自然の厳しさと対峙する土地なのだ。しかしランクルは、その厳しさに耐え得る性能を持っている。

ゆえに青森にはランクルオーナーは多い。耐久性も自慢の車種らしく、自分より古い世代のモデルを見ることもあるそうだ。だから中古車も人気で、下取り価格も落ちない。これも安心して乗れる理由になっているらしい。

現在、ランクルは70・200・プラドのシリーズ全車が、小鑓貞嘉氏というひとりのチーフエンジニアによって生み出されている。ブレない設計思想は、この体制によるところも大きそうだ。

小鑓氏はランドクルーザーについて、「地球上で最後に残るクルマ」と語っている。その言葉は日本の豪雪地帯から灼熱のアフリカまで、過酷な地域で実際に乗る人にとって、実感となって伝わっているはずだ。ランクルにとってライバルは他のSUVではなく、地球なのかもしれない。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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