中国・王毅外相の「強硬発言」は尋常ではない 権力中枢で深刻な緊張が続いている可能性

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王毅外相は、なぜこのような強硬発言を繰り返すのか。その背景など、いくつか考えさせられる点がある。

第1に、日本だけに強い主張をしているのではないということは、今一度確認しておきたい。カナダ訪問時に人権問題について激高しているということは、もはや西側諸国全般を敵視しているのであろう。

第2に、外交部の立場は中国内部で強くないということ。南シナ海の問題は外交と不可分の関係にあるが、基本的には軍が取り仕切っており、外交部の介入する余地はほとんどないようだ。しかも、外交部の振る舞いは、なにかにつけて軍から警戒されている。軟弱な外交官が強硬な軍人から睨まれているという構図だ。

国内で緊張状態が高まっている?

第3に、中国において言論は厳しく統制されており、自由な報道は許されない。現体制維持のためだ。

しかるに、人権状況であれ、あるいは日本との関係であれ、中国の考えや方針と異なる相手国の主張に対して理解を示したり、一定限度でも評価したりすれば弱腰だと批判される危険がある。中国の指導者として対外的にどのような発言をするかは体制維持にかかわる問題になりうるのだ。

だから、王毅としては外交の責任者として、かつ国家の指導者の一人として、二重の立場において強い発言をする必要があったと思われる。

第4に、王毅が今、強硬な姿勢をとっているのは、国内で緊張状態が高まっているからではないか、と筆者は考える。

さまざまな政治的な緊張が考えられる。南シナ海における政策問題かもしれないし、習近平政権内外のパワーバランスに変化が生じているのかもしれない。あるいは王毅外相のさらなる昇進問題が絡んでいるのかもしれない。

具体的な理由については、現時点では推測するほかない。しかし、いずれにしても、中国外相の対外強硬姿勢は、国内の情勢と不可分であることを知っておく必要がある。

美根 慶樹 平和外交研究所代表

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みね よしき / Yoshiki Mine

1943年生まれ。東京大学卒業。外務省入省。ハーバード大学修士号(地域研究)。防衛庁国際担当参事官、在ユーゴスラビア(現在はセルビアとモンテネグロに分かれている)特命全権大使、地球環境問題担当大使、在軍縮代表部特命全権大使、アフガニスタン支援調整担当大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表を経て、東京大学教養学部非常勤講師、早稲田大学アジア研究機構客員教授、キヤノングローバル戦略研究所特別研究員などを歴任。

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