「保育園建設反対」議論に違和感を感じる理由 単一機能しかない街に未来はあるのか

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住環境維持という視点のみで保育園建設問題を議論していいのだろうか(写真:SPIDER/PIXTA)

2月の「保育園落ちた日本死ね!」の匿名ブログに始まり、遅々として進まない待機児童問題に怒りの声が上がっている。これに対し、厚生労働省が3月に発表した「待機児童解消に向けて緊急的に対処する施策について」に続き、東京都杉並区や千葉県市川市が待機児童解消のための緊急対策プランを打ち出し、自治体は保育所確保に追われている。ところが、そこに立ちはだかるのが住民の反対という大きな壁だ。

杉並区では5月29日に緊急対策第2弾として、区内4カ所の公園を含む、区立施設などの敷地、建物の一部に保育園を新設する計画を立て住民説明会を開いたが、反対意見が相次ぎ深夜まで紛糾した。4月には千葉県・市川市で、ある保育園が住民の反対を受け、予定していた開園を撤回。このほか、2016年に入ってから台東区、佐倉市、我孫子市など複数の自治体で、保育園の開設が断念ないし延期されている。

街によってそれぞれ個々の事情はあり、たとえば杉並の場合は自治体による周知が行き届いていなかった点も問題だった。が、保育園建設反対が叫ばれている地域では、「子どもの声がうるさい」「道が細くて危険」「資産価値が落ちる」などが主な反対理由としてあげられている。だが、果たして「良い住宅地=閑静な住宅街=住宅以外は何もない」という概念が、今後の街の在り方や発展を考えた場合、正しいのだろうか。

職住分離を推進した渋沢栄一

江戸時代、都市で暮らす日本の庶民は低湿地を中心に、現在の豊島区の3倍近い人口密度の、稠密な住環境の中に暮らしてきた。もちろんそこには、住居と働く場所の区別はなかった。明治期に至っても居住環境は変わっておらず、その反動からか、大正期以降に分譲された住宅地は住環境を最優先した。それが明確に書かれているのは渋沢栄一の田園都市株式会社が洗足分譲後に出した小冊子「田園都市案内」だ。

冊子は日本の田園都市の特徴を7つに分けて紹介しているが、トップは「土地高燥にして大気清純なること」。乾燥した高台で、空気のきれいな場所が尊ばれたのである。2番目の特徴は「地形良好にして樹木多きこと」で、これまた住環境が挙げられている。逆に利便性については4番目に「1時間以内に都会の中心地に到達し得べき交通機関を有すること」とあり、以降のどこを見ても、買い物に便利という今の住宅選びに不可欠な要素は盛り込まれていない。

実際、田園都市株式会社の代表作である田園調布では、駅前広場から坂を上がった高台に住宅が、下り坂に沿って商店街が、それぞれ作られており、住環境が最優先されていたことが視覚的にも明らかである。また、同冊子からは、田園都市が職住分離を目指して作られていたことも分かる。商業施設も坂の下に配されていたことも合わせて考えると、田園調布の住宅街は住むという機能のみを与えられた場所というわけだ。

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