「地震は予知できない」という事実を直視せよ 国の地震予測地図はまったくアテにならない

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住宅はもちろん道路も大きく損傷(熊本県益城町)

現時点では、残念ながら、上述のような正確な予知はできないというのもそのための理論はもとより、手法も皆無だからだ。国内外の多くの研究者が130年にわたって頑張ってきたことは事実だが、その努力は報われなかった。これは決して筆者単独の意見ではない。

1999年にネイチャー誌が開催した予知についてのディベートでは、世界トップレベルの研究者のうち、現時点で正確な予知を述べた者は皆無だった。また、日本政府も1995年の阪神淡路大震災の発生後、予知できなかった批判をかわすためか、旧科技庁に設置されていた「地震予知推進本部」を廃止し、その代わり「地震調査研究推進本部」を設置した。

「予知」は「調査研究」に一括変換された

ただ、この組織は、「予知」という言葉を「調査研究」に一括変換してできたようなもので、「東海地震」を予知しようとする気象庁下の体制を維持したまま現時点でも存続している。

この東海地震予知体制は1978年に施行された大規模地震対策特別措置法(以下「大震法」と記す)によって設定されたシステムだ。建前上、気象庁は東海地方の観測網をモニターして、“異常現象”を観測すれば研究者6人(うち5人は東大地震研究所教授)からなる判定会を招集して、判定会の勧告を受けた上で気象庁長官は総理に警戒宣言を発令することを促し、閣議決定を経て発令する。なお、気象庁の実用的予知体制は東海地方に限定されている。

大震法の科学的前提は、「東海地震」直前(3日以内)の顕著な「東海地震の前兆現象」として高い信憑性で識別できる地殻変動が起きるということだ。しかしながら、「東海地震」というもの自体、一つの想定された“シナリオ地震”にすぎず、想定通りの前兆現象が現れる科学的根拠は全くない。

これまで国内外で地震発生後、多くの「こういう前兆現象をみた」との報告があったが、これまで科学的に有意性が確認された前兆現象の事例は皆無でこれらは地震予知ではなく、“地震後知”と呼ぶべきものだ。

日本では世界の中でも最高性能の観測網が設置されているが、2011年の東日本大震災(M9)前にもそのような前兆現象が観測されなかったし、熊本地震においてもなかった。東海地震は他の地震と違うという主張も聞くが、地球はそのような特別扱いを都合良くしてくれるのだろうか。つまり、東海地方で巨大地震が起こる前に予知を可能とする現象が発生することを前提に国の法律を制定してしまうことは、トンデモナイ“前兆幻想”といわざるをえない。

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