また震災被害の日本製紙、今度は早期再開へ 八代工場の復旧を急いだ理由とは?

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一方、八代工場は印刷・情報用紙の生産量では日本製紙内で四番手にすぎず、同じ九州域内でも王子製紙(王子ホールディングス傘下)の日南工場(宮崎)や中越パルプ工業の川内工場(鹿児島)と、規模は大して変わらない。

被災した八代工場の全景

しかし、新聞用紙の生産拠点としては、八代工場は九州で業界唯一の存在だ。地元の新聞業界への供給責任を果たすためにも、まずは新聞用紙向けの抄紙機を立ち上げることは不可欠だった。

今回の熊本地震の業績に対する影響について、日本製紙は「現時点で不明」と発表。八代工場は建屋に若干の損傷を受けたものの、「窓が外れるなど、抄紙機の再稼働には影響しない程度のもの」(同社)という。

業績への影響は限定的か?

抄紙機は通常、一度止めると再開までに時間がかかり、生産効率も落ちるため24時間動かしている。それを今回、一時的に止めたことによる生産ロスなどが発生した可能性はある。ただ、直接的な損失は、東日本大震災時の820億円(2011年3月期~2012年3月期に計上した震災損失特損の合計額)に比べれば、極めて限定的な金額にとどまりそうだ。

八代工場の再稼働のメドはついたものの、今後大きな余震があれば再度の稼働停止となる可能性もある。万一、稼働停止が長引いた場合は、北海道の釧路工場がバックアップ体制を取って、新聞用紙の供給責任を果たすことになりそうだ。

また、生産再開にこぎ着けても、製品を顧客にスムーズに届けられない事態もありうる。九州域内での物流はトラックが主流だが、高速道路も一般道も寸断される中、物資の輸送は生活必需品が優先されており、「物流の手配には苦労している。消費地の倉庫にある在庫も使いつつ、運べるものは運んでいく」(同社)という。

八代工場の生産活動が正常化するには、今しばらくの時間が必要といえそうだ。

大滝 俊一 東洋経済 記者

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おおたき しゅんいち / Shunichi Otaki

ここ数年はレジャー、スポーツ、紙パルプ、食品、新興市場銘柄などを担当。長野県長野高校、慶応大学法学部卒業。1987年東洋経済新報社入社。リーマンショック時に『株価四季報』編集長、東日本大震災時に『週刊東洋経済』編集長を務め、新「東洋経済オンライン」発足時は企業記事の編集・配信に従事。2017年4月に総務局へ異動し、四半世紀ぶりに記者・編集者としての仕事から解放された

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