緊迫!シャープ “切り札”IGZO液晶に黄信号 矛盾するオンリーワン戦略

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 こうした失態続きに、シャープ社内からもIGZO戦略に対する疑問の声が上がっている。ある幹部は、「経営トップは、『オンリーワン商品』と『オンリーワンデバイス』を混同しているのではないか」と周囲に漏らしているという。

カメラ付き携帯電話、プラズマクラスター搭載の空気清浄機、液晶テレビ「アクオス」──こうしたオンリーワン商品の数々は、2000年代前半までのシャープを牽引してきた。しかし部品となると、「唯一である」ことが裏目に出る。

時代を席巻するアイフォーンやギャラクシーの年間販売台数は数千万から億という単位だ。アップルは、リスク分散のために部品を複数社から購買する。つまり2社以上の企業が造れる技術しか採用しない。シャープしか造れないIGZOは、このままではアイフォーンに採用されることはまず、ない。

競合もIGZO技術の優位性に目をつけてはいる。ただ、アップルなどが当面は採用しないとみて、有機ELなどほかの技術開発に資源を注いでおり、自社での量産化には至っていない。

「もし、シャープがIGZOのライセンスを供与すると持ち込めば、応じる可能性はある」(関係者)。仮に実現すれば、シャープは技術料収入を手にできるだけでなく、次世代アイフォーンやアイパッドがIGZOを採用する道が一気に開ける。

組む相手さえ見つかれば、中小型液晶事業そのものを、大型液晶のように切り離すという手もある。今回のギャラクシー特需は長くて1年という説もあり、多気第3は遠からず稼働率問題に直面するおそれがある。アイフォーン5やアイパッドの受注がずっと続くという保証もない。巨大な液晶パネル工場を抱えているかぎりリスクは尽きず、それでいてハイリターンを得られる可能性は低い。

このまま単に「守る」だけの経営戦略では、IGZOのオンリーワン技術は生きない。「サムスン、LG電子であれば、その気になれば1年でIGZOを量産できる。台湾、中国勢が技術的に追いつくのも時間の問題だ」(観測筋)。シャープが決断できるタイミングは、今この瞬間なのだ。

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(本誌:前野裕香 撮影:ヒラオカスタジオ =週刊東洋経済2012年10月13日号)

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