中国は長い「冬の時代」に入ろうとしている 「中国大停滞」を書いた田中直毅氏に聞く

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田中 直毅(たなか・なおき)/評論家。1945年生まれ。東京大学法学部卒業。東大大学院経済学研究科修士課程修了。国民経済研究協会を経て、84年から本格的に評論活動を始め、現在に至る。97年21世紀政策研究所理事長。2007年から現職。著書に『最後の十年日本経済の構想』『「反日」を超えるアジア 北京の目、ソウルの目』など

中でも南シナ海が最大の問題で、中国の国際法秩序を見下したやり方に対して、寄り添うことは難しいと考える近隣諸国が増えていることが影響している。遠い欧州はその脅威にほとんど関心がなく、近隣諸国において特に招集能力が低下。それが経済に結び付けば、国境を越えたサプライチェーンネットワークに中国を組み込むことを、とりわけアジア諸国は受け入れがたくなる。

加えて人権抑圧や表現の自由の大幅な制限は経済の安定性を損なう可能性がある。中国に直接投資を行う、あるいは本格的な営業の基盤を作るという際に、人権抑圧がこんなに軽々しく行われているなら、いずれ問題が噴出する可能性があり、これでは長期的な投資は二の足を踏まざるをえないというのだ。

 習近平は雍正帝と重なる部分がある

──内外摩擦が大きい。

そこには中国共産党と人民解放軍との問題がある。この関係が六四動乱(天安門事件、1989年)を契機に変化した。そのことは中華民族の復興とも結び付いているのかどうか。かつての中国の帝国形成は、近隣諸国に対しては武断的な振る舞いをしないことに特徴があった。日本での研究では京都大学教授の職にあった宮崎市定の著作が詳しい。最も版図を広げた清の時代、隆盛を誇った雍正帝(在位1722~35年)にしても近隣諸国への武力行使を叱責しているという。

──中国史の中で見れば、雍正帝と習近平総書記に重なる部分があるのですか。

私はそう思っている。習総書記がその地位に就いたときに、党内の腐敗が深まり、中国共産党の生命力、正当性が危うくなっているという認識があった。では、歴史をさかのぼって何をモデルにするか。毛沢東とはいかない。習総書記自身、文化大革命時にたいへんな被害を受けている。共産党のこれまでの体制の中にモデルはないとして、中華民国や清末期はありえない。さらにさかのぼると雍正帝までいく。

──満州族の皇帝を、ですか。

確かに満州族だが、中国の皇帝としての立ち居振る舞いを築き上げた人だ。習総書記は清壊滅を唱えた漢民族に属しながらも、違う感覚があるのだろう。

──詳しく知る機会があった?

宮崎市定の著書が翻訳されて、枢要な人に読まれていた可能性はある。習総書記もあるとき接したことがあったのでは。

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