西武のレストラン電車「52席の至福」公開! 建築家・隈研吾氏による初の車両デザイン

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「52席の至福」のデザインについて語る隈研吾氏(撮影:風間仁一郎)

「食堂車はどんなレストランよりもぜいたくな体験を与えてくれる」。ヨーロッパを鉄道で移動する際、たびたび食堂車を利用するという隈氏はこう語る。「日本でも食堂車は特別感のある、わくわくするものだった。そういったものが消えてしまった感じがしていたので、依頼を受けた時は『自分の欲しかったものがやっとできる』と感じた」という。

「52席の至福」のデザインには、その「特別感」を生み出す工夫が随所に凝らされている。木材を活かしたデザインには隈氏の建築と共通したイメージが感じられるが、それだけではない。実は「子どもの頃は床や座席に木を使った電車が走っていて、乗るとわくわくした」という郷愁が反映されているという。「昔の電車は座席にも木が使ってあったし、そういう電車の中に入ると、ある種タイムスリップする感じがあった。それをもう一回取り戻したいと思った」と隈氏は語る。

それぞれの車両のインテリアで最も異なるのは天井のデザインだ。列車は4両編成のうち2両が客席、1両がキッチン、残りの1両が多目的スペースという構成だが、客室車両はそれぞれ天井に柿渋の和紙と西川材の格子天井、キッチン車両には杉材を使用。さらに、LEDを使った照明で天井を「なめる」ように照らし、和紙や杉といった素材の風合いが浮かび上がらせている。

天井のデザインに力を入れた理由について、隈氏は「鉄道車両のかまぼこ型の天井は普通の建築ではなかなか作れない」からと説明する。一般的に、今の建築物の天井はフラットな構造がほとんど。一方で、鉄道車両の屋根はカーブしたかまぼこ型だ。「昔の石造建築の時代はアーチとかドームの天井が基本形だった。そういったかまぼこ状の天井は、日常でフラットの天井に慣れている人から見ると、とても新鮮な感じがするだろうと思った」(隈氏)。その天井に車両ごとに異なるキャラクターをつけることで、非日常感を演出しようという狙いだ。

鉄道は「移動から体験へ」

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「52席の至福」の内装

元の車両とは全く違うインテリアに生まれ変わった「52席の至福」だが、窓の位置や大きさといった基本的な構造は変えていない。既存の車両の改造という条件下でデザインに制約はなかったかとの問いに、隈氏は「それは特に拘束だとは思わなかった」と話す。「車両の形をデザインするというより、体験をデザインすることが今回の目的」だからだ。

これまでの鉄道車両について、隈氏は「移動という機能を優先した、工業化社会でのインフラデザインだった」とみる。だが、最近では「鉄道に乗る人は、移動というよりそこで得られる経験に重きを置くようになってきている」。そこで得られる鉄道ならではの体験の一つが「景色を見ながら特別な食事を楽しめる」ことではないかと隈氏はいう。

「新幹線がその速さで世界の鉄道の歴史を塗り替えたことで、逆にゆったりとした移動の時間を楽しむことが忘れられてしまった感じがある。そういった、豊かな日本の鉄道文化をもう一度取り戻したい」。隈氏の思いが込められた「52席の至福」は、4月17日から西武線を走り出す。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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