超短期「就活」のはずが長期化している皮肉 解禁1カ月半!企業も学生もミスマッチ懸念

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文化放送キャリアパートナーズが、就活生向けに行っている「ブンナビ学生アンケート」によると、3月下旬時点で就職イベントに参加した割合は前年同期に比べて約8%減少している。その一方で、Web上の適正テストの経験者が50.7%と前年同期比9.6%増、エントリーシート、応募書類の提出者が55.6%と同5.2%増えた。

合同会社説明会など就職初期の活動が早めに終息する反面、これまで以上に企業の選考活動が早まっていることが分かる。4月半ば以降はさらに、この動きが加速していきそうだ。経団連の指針では選考開始は6月と決めているが、水面下では5月前後に内定もしくは内々定を出している企業もいるのでは、との見方が強い。

こうした背景には、企業側の焦りが反映されている。リクルートキャリア・就職みらい研究所の「就職白書2016」によると、2016年の採用実績数が採用計画数を下回った「採用未充足企業」の割合は全体で50.7%と実に半数を超えている。この数値は2014年卒で39.2%、2015年卒は42.6%と、年を追うごとに高まっているようだ。このため、「企業側は、今年こそ採用計画通りの学生を確保したいという気持ちが強い」(岡崎所長)という。

景気減速踏まえ今年の採用に賭ける企業

企業側が焦りを見せるのにはもう一つ理由がある。中国経済の減速や円高など、企業業績の見通しに暗雲が垂れ込め始めているためだ。2016年はまだ採用抑制を行う動きは見られないが、2017年以降の就職活動には影響が出かねない。そうした心理も手伝って、採用担当者も早めに内定者を確保しようと躍起になっている。

一方、就職希望者数より採用予定者数が上回る「売り手市場」と言われる就活生にとっても、油断は禁物だ。

超短期決戦になったことで、学生の企業研究や業界分析が十分ではない。このため、知名度の高い人気企業だけを応募したり、エントリー数が少ないまま本番の面接を迎えたりする就活生が出てきそうだ。ただ、人気企業は応募が殺到するため倍率も高い。志望先のエントリー数が少なければ、6月に内定が取れない就活生も増える。

さらに、次の就職志望先も見つからず、就活自体が後手に回ってしまう学生も出てこよう。「選考開始前の5月頃に水面下で内々定を出す企業が増えると、表からは見えないため、選考に漏れていることに気がつかない学生は、そのまま6月を迎えることになる」と、平野主任研究員は指摘する。学生も内定が決まるまでは、新たな志望企業を発掘し、エントリー数を数多く確保し続けることが求められる。

ただ、6月以降もチャンスがないわけではない。学生の応募が人気企業に集中すれば、それ以外の企業は逆に十分な採用数を確保できない可能性が出てくる。その場合、企業は追加募集を行う。「ただ採用数によっては、オープンな形ではなく個別の大学のみに募集を出すなど、限定的となる可能性もある」(平野主任研究員)。

6月以降は、夏場までに内定の取れなかった学生と、採用を確保できなかった企業との間で、再び採用活動を繰り広げられると予想される。夏場に帰国する留学生向けの採用を考えている企業もあり、超短期決戦とは裏腹に2017年卒採用は分散・長期化の流れになってきそうだ。企業、学生双方にとって、今年も難しい就職活動が続くことになるだろう。

宇都宮 徹 東洋経済 記者

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うつのみや とおる / Toru Utsunomiya

週刊東洋経済編集長補佐。1974年生まれ。1996年専修大学経済学部卒業。『会社四季報未上場版』編集部、決算短信の担当を経て『週刊東洋経済』編集部に。連載の編集担当から大学、マクロ経済、年末年始合併号(大予測号)などの特集を担当。記者としても農薬・肥料、鉄道、工作機械、人材業界などを担当する。会社四季報プロ500副編集長、就職四季報プラスワン編集長、週刊東洋経済副編集長などを経て、2023年4月から現職。

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