ロシアの成功で得た「解」 三菱自動車が選ぶ道

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三菱商事が見いだしたロシア版「ヤナセ」

ロルフの最大の強みは、卓越したアフターセールス。たとえば、この直営店舗に併設するサービスセンターでは、整備・メンテナンス工場に加え、板金塗装工場までそろっている。相談に来たオーナーには専従のドクターがついて車両を総点検し、異常を洗い出す。あとはドクターと相談しながら、オーナーが予算の範囲で直す箇所を決定する。「売りっぱなしが基本だったロシアのアフターセールスで、ロルフは最初に顧客満足の概念を持ち込んだ」とロルフの藤岡真ディレクターは話す。

教育面でも独自のカリキュラムを用意し、メカニック、セールスマンに定期的に研修を行っている。まさにロシア版「ヤナセ」だ。極めつけが、ロルフ系列の店舗で購入した車だけにつくエンブレム。これが車体についているだけで、中古車の売却価格が約10%上がるといわれる。

強力なロルフのブランド。それが現地での三菱車の評価に直結している。「われわれの調査によれば、ロシア人は三菱車に対し、とても活動的で信頼性に優れたイメージを抱いている」とロルフインポートのドミトリー・ロトキンCEOは語る。中でも人気車種のランサーは05年、06年と2年連続でロシアの輸入車販売台数のトップに立ち、2年連続でカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した。

今後は、現在107店ある三菱の販売店を3年以内に142店に増やす計画。今は新車需要の6割がモスクワとサンクトペテルブルクに集中しているが、今後、景気拡大が地方へ波及するのに合わせ、東部への進出を強化する方針だ。現在は新車市場の約半数をセダンが占めるが、今後は悪路走破性に優れたSUVの需要が拡大すると予測、「三菱もSUVの新車を多く持ってきてほしい。そうすれば、10年には販売計画の17万台をさらに上回る20万台売れる」(ロトキンCEO)と強気だ。

今や自動車販売トップに上り詰めたロルフだが、その記念すべき第一歩となったのが、創業間もない頃、三菱自動車から与えられた輸入代理店権限だった。当時、この成長期待株を見いだしたのは、実は三菱商事だった。

「私に三菱のクルマを売らせてほしい」。ソ連が崩壊したばかりの92年、当時38歳のセルゲイ・ペトロフ会長(ロルフ創業者)が三菱商事の門をたたいた。ちょうど三菱商事もこの地の資本主義の勃興に目をつけ、商機を探っている最中だった。ペトロフ氏の前職は軍人。戦闘機ミグのパイロットを務めた後、自由主義的な思想を理由に投獄された異色の経歴を持つ。この男が持つ特有の商才を見抜いたのが、当時、欧州に赴任していた春成敬氏(現三菱自動車北米担当常務)だった。

三菱商事はまだ資金調達力の弱かったロルフに対し、車両仕入れ資金を供給した。ロシア国内の貸し出し金利が2ケタだった90年代、1ケタで融資を続けた。98年のロシア通貨危機を難なく乗り切れたのも、商社という後ろ盾の存在が大きい。

「民間消費が活性化しつつある地域で、よい現地パートナーをいち早く見いだし、どんどん伸ばす。これが商社の王道。その意味でロシアのケースは王道中の王道」と、三菱商事モスコー事務所自動車部部長の秋元国俊氏は胸を張る。

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