リーマンが大損 丸紅も巻き込む大型詐欺事件か
巨額のカネはどこに消えたのか。病院再生ビジネスを手掛ける新興企業、アスクレピオス(東京都中央区、3月19日破産申し立て)の破綻劇が、大型詐欺事件の様相を呈している。同社が仕組んだ投資スキームには、複数の上場企業だけでなく、有名デザイナーを含む個人投資家20人以上が資金を拠出。投資総額約400億円のほとんどが回収不能状態だ。中でもリーマン・ブラザーズ証券は、その額が突出。焦げ付き額は約320億円にも上る。
問題の闇が深いのは丸紅の存在だ。焦点の投資スキームでは同社が共同事業契約者として登場。リーマンは丸紅から、元本などを保証する「確認書」なども差し入れられていると主張、契約違反で民事訴訟も起こしている。一方の丸紅側は、「納品請求受領書」を何者かが偽造し、30代前半の元嘱託社員2人(懲戒解雇)が無断でアスク社に会議室を使わせたなど、会社としての関与を否定。主張は対立する。
丸紅とアスク社の間に医療機器販売などの取引があったのは事実。丸紅によると、ここ3年間でその額は約20億円程度。ただ、昨年中にアスク社の親会社となった東証マザーズ企業、LTTバイオファーマの山中譲元社長が元丸紅課長だったとの事実もある。「アスク社が再生支援する病院に丸紅は医療機器を大量に売り込んでいた」。そう話す関係者もいる。
トンネル使い会計操作
巨額資金を集めたアスクレピオスとは、いかなる会社なのか。同社は都内の中堅証券会社を母体に2004年に設立。オープンループやメデカジャパンといった不振上場企業と次々に提携し、昨年9月に株式交換でLTT社の傘下入り。当時のアスク社社長、齋藤栄功氏はLTT社の大株主に躍り出るとともに、副会長に就任した(その後辞任)。
関係者によると、アスク社や周辺者の資金集めが派手になったのは06年秋。匿名組合などを多用したのが特徴だ。齋藤氏とともにLTT社取締役となった外資系証券出身者をアレンジャーに、ゴールドマン・サックス証券から数十億円を導入(その後全額回収)。さらにメデカ社から35億円、急成長の金融企業フィンテックグローバルから22億円を集めた。そして極め付きが、リーマンだった。
破産申立書などによると、アスク社は集めた資金を、「指定業者」と称する都内の建築設計会社に送金。そこから表向きは病院再生に投資、配当として返金を受けていたようだ。その差額がアスク社の収益というわけだが、07年3月期は従業員わずか15人で実に24億円もの経常利益を上げたと公表。が、実際は指定業者をトンネル会社にした会計操作だった疑いが強い。
わからないのは資金の流出先だ。確かに一部は病院融資に回され、先月末に大阪府八尾市の医療法人が破綻するなどしている。だが、ほかの出資者への償還元利金に充てられた分を考慮しても、数百億円規模のカネが闇に消えた可能性が高い。前出の山中氏は丸紅在籍時に「ユナイテッド・インベストメント」など複数の会社に関与、個人的に流用された形跡もある。破綻状態の不動産会社に対する貸し付けもあったようだ。
前出の指定業者を、都内・靖国神社近くの雑居ビル4階に訪ねた。鉄製扉をノックすると、応対に出たのは初老の男性。「私も困ってるんです…」。聞けば、社長だという。古びた事務所に一人きりのようだ。こんな場末の会社を組み込んだ投資スキームを、なぜリーマンは信用したのか。少し調べれば、いかがわしさに気づいたのではないか。
「警察に何も話すなと言われてます」。男性はそう言って話を打ち切った。水面下で進む警視庁の捜査は、どこまで全容を解明できるのか。
(高橋篤史、山田雄大 撮影:風間仁一郎 =週刊東洋経済)
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