不動産屋は、どうして「怪しく」感じるのか 家を買う際に知っておくべき「業界の現実」

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また、マイホームを探す場合には不動産広告を見ることになりますが、その広告にまつわる問題もあります。よくお客様から聞くのが「不動産屋が言う徒歩何分はあてにならない」という言葉です。どうでしょう? そんなイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。

実際には、不動産広告を出す場合には厳しくその掲載基準が決まっており、先の分数表記については、80mで1分と表記することが定められています。もし駅から物件までの距離が80mを超えた場合、それが85mであっても、2分と表記するルールになっています。しかし、その程度の誤差であれば1分と表記されている場合が多いのが実情でしょう。ここにもモラルの問題が出てきます。

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冒頭、不動産会社は多額の広告費を払ってお客様を集めていると書きましたが、広告費をかけている以上、問い合わせがたくさん欲しいのは当たり前のことです。そこで問題となるのが「おとり広告」です。

「おとり広告」とは、実際にはない物件を掲載してお客様の関心を引き寄せ、問い合わせさせるというものです。しかし、問い合わせた場合にはその物件はありませんので、たとえば「つい先ほど申し込みが入ってしまった」とか「契約になってしまった」等々の言い訳でごまかし、違う物件を紹介することになります。さすがに、この世に存在もしない物件を掲載することまではなくても、少し前に決まってしまった物件で割安だったものをいつまでも掲載しているというケースが今でも存在しているのです。

一生に何度も買わないから、なかなか学べない

日本においてマイホームを購入するというイベントは、一生に1回というイメージがあり、実際に何度も買い替えるケースは少ないようです。たとえば米国のように、一生の間に5回前後の買い替えをすることが一般的な国と比較すると、不動産取引において経験を重ねていくことが難しいという問題があります。つまり、仮に失敗したり思いどおりに行かなかったことを活かして、次はもっといい不動産会社を見つけようというチャンスが少ないとも言えます。

さまざまな不動産業界が不信感を持たれる原因について書きましたが、実際には正しい営業活動をしている会社が大多数です。しかし、問題のある会社がゼロにはなっていません。その背景にあるものに「売りは信頼」「買いは情報」という言葉があります。自分の家などを売る場合には、大切な財産であるがゆえに信頼できる不動産会社という基準で選択するものの、買う場合には、よい物件が欲しいという思いが先行し、物件情報を基準に選択してしまう人が圧倒的に多いということです。その結果「よい不動産会社=よい物件を紹介してくれる会社」になってしまいます。

もちろん、情報は重要です。しかし、一生の買い物であることを忘れずに、誰から買うか? どこから買うか?という視点を大事にしていただきたいと思います。

高橋 正典 不動産コンサルタント

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たかはし まさのり

株式会社バイヤーズスタイル代表取締役。宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、国土交通大臣登録証明事業不動産コンサルティング技能登録者。

1970年東京生まれ。従来の日本の不動産業界の慣習を変え、より顧客に寄り添う「エージェント(代理人)ビジネス」にシフトさせるべく、株式会社バイヤーズスタイルを設立。顧客の物件の資産価値向上のため、業界で初めてすべての取扱い物件に「住宅履歴書」を導入。一般的に売りづらいとされる築年数の古い中古住宅の売買に精通し、顧客から厚い信頼を得ている。

さらに、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し、流通させるため「売却の窓口R」を運営し、その加盟店は全国に広がっている。不動産流通の現場を最も知る不動産コンサルタントとして、各種メディア・媒体等においての寄稿やコラム等多数。一方で、一般社団法人相続支援士協会の理事を務めており、相続問題を始めとする家族の諸問題に造詣が深い。自身も30歳で二世帯住宅を建て、その後父親を看取った経験から、後悔のない親とのかかわり方を提唱している。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)などがある。

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