オープンな連携でイノベーションを 東洋大学
第9回は、IT業界の変遷とともにキャリアを歩んできた、前グーグル日本法人名誉会長の村上憲郎氏と、2017年度に東洋大学で情報連携学部※の設置を構想する坂村健氏が対談。ITの世界に求められるスキルや、「連携」の重要性などについて語り合った。
坂村 村上さんは、どういった経緯でIT業界に進まれたのですか。
村上 大学の頃に見た映画『2001年宇宙の旅』に登場する人工知能型コンピュータ「HAL9000」に触発されて、独学でプログラミング言語を少しかじっていました。大学でプログラミングを学んでいたわけではないのですが、それが縁で日立電子に入社して、ミニコンピュータ「HITAC10」を使って、いまで言うシステムエンジニアのような仕事をしていたのです。まだ、コンピュータに手触り感があった時代でした。コンピュータ上で行う計算を高速化するためのアルゴリズムや、外部のアナログな機器を動作させる機械語をアセンブリ言語で書いたりもしていましたね。
坂村 機械語プログラムを人間が理解しやすいように記述するアセンブリ言語を扱えるのは、いまではハードウエアに近い領域の人に限られます。村上さんは、プログラミングを学生時代の独学やキャリアの初期段階で学んだことが、その後の大きな力になったのではないでしょうか。こうしたコンピュータの基本原理に近い部分を理解していれば、イノベーションにつながる新しい発想が生まれやすくなると考えています。本当はもっと早い年齢から学ぶのが望ましいのですが、大学においてもきちんとプログラミングを教えるべきです。
村上 ICT教育というと、タブレット端末を配ってICTを活用しようという教育が検討されていますが、私も、基本となるコンピュータプログラミングそのものを教えることが大切だと思います。
坂村 その後は、どうされたのですか。
村上 日立電子がミニコンから撤退することになり、ミニコンで世界トップクラスだったデジタルイクイップメント社(DEC)に移りました。米国の会社なのですが、当時の私は英会話講座のカセットを聞いても、中学1年生レベルさえ聞き取れないほど、英語はまったくできませんでした。それで、勉強法を試行錯誤して、まずスピードの速い英語を聞いて耳を鍛えてから、本来のレベルのレッスンに戻るというやり方で、1日3時間、3年間にわたって毎日勉強しました。その時の教訓を踏まえて、世界で活躍したいなら、英語「を」勉強するだけではなく、早いうちから英語「で」学べる環境をつくるべきだと訴えています。
坂村 国内市場が縮小する日本は、国外に出ることがどんどん重要になるでしょう。東洋大学に2017年に新設予定の情報連携学部※では、1年次にコミュニケーションのツールとして、プログラミングとともに英語力を徹底して鍛えたいと考えています。学部内には、情報連携エンジニアリング、情報連携デザイン、情報連携ビジネス、情報連携シビルシステムの4コースを設け、2年次で専門分野を学び、3年次以降は、他分野の人とコミュニケーションをとって「連携」を経験してもらいます。
村上 コース設計を見ると、ビジネスコースは会計学・経営学と、データサイエンスの文理両面を学べるようになっていますね。私も、理系学生こそが、社会の基礎をしっかり学ぶべきだと考えています。シビルシステムも、これからの時代に必要なスマート・コミュニティの実現につながるでしょう。いまのIT産業は、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)の3つがキーワードです。インターネットで生まれたビッグデータを分散処理して解析を高速化する技術に加え、これまでデータ解析で使われてこなかった非構造データの解析はAIによって発展しました。そして、これから本格的に始まろうとしているIoTは、さらに大量のビッグデータを生み出す……という具合にITの技術は互いに連携しあっています。新学部の名称を単なる「情報」ではなく、「情報連携」としたところは、さすがだと思います。