「シャープを含め、企業再生に甘い薬はダメ」 パナ社外役員に就く冨山和彦氏が直言する

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――新陳代謝の周期が短くなる中、大型投資は難しくなります。

だから投資案件の大小で価値を決めない事が一番大事。日本のメーカーって、大きな投資が好きなのよ。1兆円になる産業とか、すぐそういう話をしたがるけれど、10億円なんてゴミみたいな事業だと思っちゃうから、大事にしない。けれども、インターネットだってAI(人工知能)だって、始まりは小さい事業。注目されるころには旬は過ぎていて、何千億円とかそういう投資は、だいたい儲からない。基本的に投資は逆張りだから。シャープの液晶も、元をただせば、電卓のディスプレイだった。何がウン兆円事業になるかなんて、その時点では実は分からない。

だけど、えてして日本の従来の電機メーカーは、ニッチな事業を軽んじる。とにかく売り上げを伸ばそうとする。そんなことより、質を問うべき。ニッチであっても、ちゃんと利益を出して、まともな雇用を作って、税金払う事業が偉いんですよ。どんなたいそうな工場を作って、難しいものをやっていようが、儲からなくて税金も払えなくて、リストラをやらなきゃいけないようではダメだよ、はっきり言って。

――では、パナソニックが売上高10兆円を目指すのは、ナンセンスでしょうか。

いや、10兆円を目指すという目標は、掲げたらいい。でも、その目標のために、2000億~3000億円の市場を狙いましょうとなると、レッドオーシャン(競争の激しい既存市場)で、厳しい。

今は小さく見えていても、自社の核となる遺伝子が生きる事業を大事にしたらいい。100やれば、そのうち1つか2つは化ける。

新卒一括採用の世界観は棄てろ

パナソニックは自動車や住宅、BtoBの分野に活路を見い出し、復活を目論んでいる(撮影:梅谷秀司)

――アップルは日本の中小企業に研究員を送るなど、自社で生かせる技術を世界中から探す体制を敷いています。パナソニックも今後はそういった取り組みを強化するのでしょうか。

当然日本のメーカーもしなければ。ただ、問題の本質は、基本的な精神構造としての自前主義から脱却できるか。日本の会社の基本的問題として、新卒一括採用、要するに、いい大学を出た新卒一括採用の”男性正社員至上主義”なんですよ。それでは、俺たちが作ったものが1番いいに決まっている、となる。その主義を貫く限り、常に他社が作ったモノと比べたら、自社のモノの方がいいことになってしまう。

だから、ソニーから見たら、「なんでアップルを買収する必要あるの?」ということになる。「自社にあるじゃん」、となる。いまだに十中八九、こういう結論になります。自社の中で、分別のある人が批判したとしても、欠点ばかりあげつらって、通らない。だけど、イノベーションというのは、欠点の勝負じゃなくて利点の勝負。長所がとがっていればいい。

基本的な日本企業の、基本構造を変えていかないと、自前主義はなくならない。新卒一括採用はやっていいとしても、新卒一括採用が基本で中途採用は補助的、という世界観を棄てなきゃ絶対ダメ。新卒も中途も採って、新卒は5~6年で辞めちゃっても構わない、と考えないと。日本以外ではそうなっている。アップル、グーグルと互角の勝負をしようと思ったら、そこを変えないかぎりは戦えない。彼らの頭の中には、自前主義の「自」の字もない。経営者本人が半年後、自分がグーグルにいるか、わからない人たちだからね。

田嶌 ななみ 東洋経済 記者

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たじま ななみ / Nanami Tajima

2013年、東洋経済入社。食品業界・電機業界の担当記者を経て、2017年10月より東洋経済オンライン編集部所属。

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