精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける 想田和弘著~モザイクは撮影側の保身 無責任な報道を可能にする

精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける 想田和弘著~モザイクは撮影側の保身 無責任な報道を可能にする

評者 江口匡太 筑波大学大学院准教授

赤ちゃんを産んだ母親が、家族との度重なる確執から精神的に追い詰められて混乱し、泣きやまない子どもの口を塞いで死なせてしまった。本人は悔やんでも悔やみきれない罪を一生背負うことに後で気づく。

こうした虐待のニュースは最近よく報道される。想像してみてほしい。もし、あなたがテレビ番組の制作責任者なら、そうした過去をもつ本人を実名で素顔をそのまま報道できるだろうか。

著者は映画監督で、現在、『精神』と題するドキュメンタリー映画を日本各地で公開している。本書はその制作過程とその後をまとめたルポである。著者はこの映画で精神病を患っている人たちを、本人の承諾を得て実名で素顔をさらけ出して、その人となりを伝えようとした。

もし、被写体となった人に何かあったら? 病気が悪化したら? 攻撃されたら? そう考えると、モザイクをかけずに実名で報道するのはとても勇気がいる。

だからこそ、被写体となってくれた人たちをどのように報道するのか、責任をとれるのか、真正面から向き合えるという。モザイクは被写体となった人を守るためではなく、撮影側の保身のためだと著者はいう。モザイクが乱暴で無責任な報道を可能にしてしまうのだ。

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