立ち乗り10ユーロ、「LCC弾丸列車」の衝撃 価格破壊は日本の鉄道会社にも波及するか

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エコノミーよりも椅子が大きく、座席にコンセントが付いている、日本でいえばグリーン車に当たる席は69ユーロで乗車できる。家族同伴の場合、子供料金は10ユーロだ。

さらに特筆すべき点として、椅子を倒して座る補助席25席を15ユーロで販売する。10人分と数に限りがあるものの、着席保証のない乗車券も10ユーロで売り出す。ビュッフェ車両での立ち乗りを想定しているが、もし車掌が空席を確認すれば着席することもできる。

イージーでは、コスト削減のために、さまざまな方策を取っている。在来線に乗り入れるのは、高速線のインフラコストを減らすためだ。乗車方法はインターネットでの予約のみ。また、車内に無料で持ち込める手荷物の数も制限されており、余分に持ち込むには追加料金がかかる。

そのコンセプトは、まさにLCC(格安航空会社)の発想と同じ。ただ、こうしたサービスはイージーが最初ではない。タリスの先輩格に当たるフランス国鉄の高速鉄道TGVが「Ouigo(ウィゴー)」というサービスを2013年に導入している。

パリとリヨン、マルセイユなど主要都市を結び、料金は25ユーロ程度。専用サイトで3カ月前までに購入すれば、1人10ユーロという設定もある。持ち込み手荷物の制限もあり、イージーはウィゴーを倣ったともいえる。

実際にウィゴーは人気を博しており、運行区間は年々拡大している。今回イージーがスタートしたことで、格安高速列車サービスはフランス国内から欧州圏に広がり始めたことになる。

日本に格安高速鉄道の導入余地はあるか

欧州ではLCCだけでなく、高速バスや自動車も“鉄道のライバル”として立ちはだかる。パリ―ブリュッセル間300キロメートルを自動車で移動すれば、高速道路を飛ばしても3時間程度、道路が混んでいればそれ以上かかる。イージーの2時間08分~2時間30分という所要時間は、自動車やバスに十分対抗できる。

「ほとんどの人は自動車よりもタリスの快適さと速さを好む」と、同社のアグネス・オジエCEOは言う。だが、タリスの価格を割高に感じる人も少なくない。そのため、「スピードを少し遅くしてサービスをシンプルにすることで、低価格を実現した。イージーは自動車よりも速く、安全で、環境に優しく、そして快適だ」(同)。

日本でも、新幹線の割引サービスはある。東海道新幹線では、東京―名古屋間は速達タイプの「のぞみ」なら1万1090円かかるが、各駅停車タイプの「こだま」を使った「ぷらっとこだま」なら8100円で利用できる。およそ3割引きだ。だが、イージーのような破格の料金体系にはほど遠い。

イージー最安値の10ユーロは1列車につき10人分しか販売しないことを考えると、話題作りの意味合いが大いにあるだろう。そもそも乗車率が高く、ダイヤが過密気味の東海道新幹線には、こうした割安列車を導入する意義は乏しい。

だが、ほかの新幹線や利用者減に苦しむ在来線区間であれば、他国の事例も一考に値するだろう。欧州で動きだした高速列車の価格破壊の流れが日本にやってくる日は、意外とそう遠くないかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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