巨象トヨタを苦しめる負の遺産、“絶頂からの転落”を徹底検証《特集・トヨタ土壇場》

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 とはいえいくら非効率な工場でも、何よりも雇用を最優先してきたのがトヨタである。工場を潰すという選択肢は本来ありえない。英米など海外でもワークシェアリングを導入し、レイオフだけは避けてきた。

だが能力の余剰は臨界点に達し、ついにその前例を覆しそうなケースが表れた。

リストラやむなし? 苦渋の決断が迫る

GMとトヨタの合弁工場NUMMI(ヌーミー)。80年代の日米自動車摩擦を背景に84年12月から稼働したNUMMIは、トヨタには初の米国進出のモデルであり、GMには小型車生産のノウハウを学ぶ狙いがあった。だがそのNUMMIも6月1日のGM破綻を受けた後、新生GMが撤退を発表。一方トヨタは単独での存続か清算か注目されたが、ついに7月10日、清算も本格的に検討していることを表明した。

「米国ではガラガラの工場がいっぱいある。まずはそっちを考えないと」。トヨタのある役員は吐露する。NUMMIは08年、量販車のカローラなどトヨタ車を27万台生産したが、北米ではカナダ工場でも同車種を扱っており、移管が不可能なわけではない。しかも生産ラインなどが古いうえ、トヨタの他米国工場よりも高賃金と、経済合理性だけを考えれば存続させる理由はない。

その反面、工場では4600人の従業員が働いているため、政治的インパクトは大きい。閉じるにせよ、設備廃棄や退職金で数百億円の費用がかかり、どちらを選んでも苦渋の決断になろう。

近年トヨタ本体が工場を閉鎖したのは、98年10月のニュージーランド・テムズ工場くらい。しかし、これは、規模が小さく例外的なケース。年産数十万台レベルの工場を過去に畳んだ経験は、いまだもってトヨタにはないのだ。

NUMMIだけではない。米国ではほかにも、プリウス生産予定のミシシッピ工場は建屋が建ったのみで稼働は未定。08年にはミシシッピで生産するはずだったSUV(スポーツ多目的車)「ハイランダー」をインディアナ工場に移管するなど、小さな統廃合は実施したとはいえ、本格的な再編は手つかずのままだ。


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