頓挫する「貯蓄から投資へ」の誘導策、投資選択は個人の主体的判断、国は中立スタンスに徹すべし

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日銀統計によれば、日本の家計金融資産における現預金の構成比は、09年3月末で約56%、過去もおおむね5割超だった。これに対し米国では、09年3月末で現預金は約16%にすぎず、株式は30%強、投信も含むリスク資産では約43%に達する。

ところが、これは数字のマジックでもある。広島大学大学院の松浦克己教授の調査によると、米国では資産残高上位5%の階級で、家計の株式残高全体の8割近くを保有。つまり、ごく一部の大金持ちが多額の株式を持ち、残高全体の大半を保有しているのだ。逆に、資産残高下位50%の層では、株式残高の1%前後を保有しているにすぎない。一方、日本では上位5%層の保有する株式は5割弱で、下位50%層でも1割近くを保有している。日本では1株でも株式を保有している家計は、15~20%前後で、米国とほとんど変わらない(『証券アナリストジャーナル』)。米国と比べ、日本の家計の株式保有は少なくないのである。

また、リスク資産に投資すれば、有利というわけでもない。1990年代以降、総じて日本株のリターンは低く、値下がりのリスクは高かった。

第二には、金融資産のうちリスク資産に投資できるおカネは限られるのに政府のスローガンではこの面での金融教育が徹底されておらず、国民の金融資産を大きなリスクにさらしてしまっていることだ。

経営コンサルタントの小宮一慶氏は、金融資産には「守るおカネ」と「攻めるおカネ」があり、前者はリスク資産に投資すべきでないと言う。守るおカネとは、将来、住宅購入や子供の教育などに必要な資金で、当然、元本保証の預貯金などで運用するのが望ましい。そういう面はあまり強調せず、政府はスローガンを繰り返してきた。

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