資生堂「子育て女性に優しい」の先にあるもの 女性活用ジャーナリスト・中野円佳氏に聞く
両立支援制度を充実させただけでは不十分
――改革に踏み切った背景として、資生堂はどういう課題に直面していたのか。
2011年、厚生労働省出身の岩田喜美枝副社長(当時)に、インタビューしたことがある。その際、「(仕事と育児の)両立支援制度を充実させた結果、働くための制度ではなく、女性が休むための制度となってしまった」と、それをどう脱するか考えておられた。今回の働き方改革は、資生堂が当時からの問題意識を実行に移したもの、と理解している。
――両立支援制度が「働くための制度ではなくなってしまった」理由とは。
これは、資生堂だけではなく、多くの日本企業が抱える問題。育児中の社員の両立支援だけを進めて、ちゃんと成長機会を与えるという観点が薄かった。
その結果、両立支援制度を使うと、いわゆる「マミートラック」(両立できるが、昇進・昇格とは縁遠い部署や役職に回されてしまうこと)に、はまってしまう。2人目を産みたいと思っていたら、いつまでも「戦力外」から抜け出せない。資生堂の美容部員の場合、育児中だからといって仕事の内容が変わるわけではないが、手を挙げにくい、管理職になりたいのになれない、という意味では、これに該当するのではないか。したがって、「今日はやれるけど、毎日は無理です」という、ケースバイケースの対応を可能にした今回の改革は、自然な流れだと思う。
ただし、資生堂が美容部員のシフト職場でケースバイケース対応ができるのは、時短社員が帰ったあとのシフトを、美容専門学生や美容部員OGからなる「カンガルースタッフ」(派遣社員)で補っているから。
現在、多くの企業は、こうしたフォローアップ制度を持たないまま両立支援制度を充実させているので、周囲にしわ寄せがいって、不満がたまりやすい構造になっている。それを解消するために、制度はあるけど、「使わないでね」と言ってしまっている。
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