資生堂「子育て女性に優しい」の先にあるもの 女性活用ジャーナリスト・中野円佳氏に聞く 

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――資生堂の場合、美容部員1万人のほぼ100%が女性で、そのうち11%にあたる1000人以上が時短勤務、という状況。だからこそ、代替スタッフにコストをかけることができたのでは。

時短社員が何%を超えると現場が回らなくなる、という値があって、代替スタッフの導入に乗り出した面はあるのだと思う。他の会社では、そこまでしなくても、何とかごまかせてしまうだろう。

また、全ての職場で、代替人員が導入できるわけではない。資生堂の中でも、おそらく美容部員と総合職女性の状況は違う。「私は17時で帰ります」と言って、その仕事を代わりのスタッフがどこまで引き継げるのかというと、難しい仕事内容もある。美容部員の場合、スキルの差はあれ、店頭にいる人数をカバーすることはできている。

――周囲の不満もたまりにくい制度設計ということか。

カンガルースタッフの導入だけではない。まず、給与に差異がある。他の美容部員より、労働時間が2時間短い時短社員は、その分の給料がない。総合職であれば、時短でも定時帰りでも、生産性が高いのであれば評価すべき、という議論があるが、接客販売を担う美容部員の場合、お客さんを次々接客すればいい、というわけにもいかず、生産性という議論は難しい。だから、その場にいる時間が2時間短いなら、2時間分少ないペイです、というのは合理的だ。

また、明確な評価軸がある。技能試験に受かると昇給、昇格につながる。美容部員は、お客さんと接すれば接するほど技能が上がる、職人的な世界だという。時短を使い続けた方がいいのか、それとも、少しでも長く客と接することによって技能試験に合格する方がいいのか、ある程度選べる。

ほかの社員も事情によって免除があっていい

他社は資生堂の成否を見たうえで、どれだけ自社に合った枠組みを作れるかが問われる(2015年10月のブランド刷新発表会。撮影:今井康一) 

――それでも子どもを持たない社員からの不公平感はあった。

育児中の社員の個別ニーズを汲みとるのなら、ほかの社員だって、事情に応じて夕方や土日の勤務を免除してもらえる、といった対応が必要なのでは。そうしないと、カテゴリー間で対立してしまう。これは、男性にも言える話。これからの管理職は、さまざまな事情でさまざまな働き方をする人たちへの、「ダイバーシティ・マネジメント」をしていくべき。

――男性の働き方も変えていく必要がある。資生堂は男性の育休が9人と少ない(2014年)。

私は、1週間程度の「なんちゃって育休」よりは、コンスタントな定時帰りをしてほしい。もちろん、育児がどういうものかを知るという意味はあるだろうし、妻が職場復帰する際に取得するなど、取る男性が増えるに越したことはないが、普段の長時間労働を見直す方が大事。

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