まるで「クイズ」のような軽減税率の線引き インボイスの本格導入が信頼性を担保する

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こうみれば、税務当局の線引きはほぼ厳格である。前掲のクイズでいえば、返却が必要な食器がある場合(A)やカラオケボックス(D)や大学のキャンパス内にある学食(G)は、飲食を提供する場所を指定して飲食しているから「外食」となる。B、C、Eは、必ずしも飲食の場所を指定しておらず、自宅まで持ち帰ることもできるから、軽減税率が適用される。

学校給食(F)も軽減税率が適用される。ペットフードでも、人が食べることを想定している食品表示法に従った表記のある(H)なら軽減税率の適用対象となる飲食料品に該当するから、軽減税率が適用される、ということになる。これは、安倍晋三首相の国会答弁で、首相夫人が間違えてペット用のセサミンを飲んでいたが、中身は人が飲むものと同じだったとのエピソードを語ったことで、明らかになった。

機内食など、現時点において一部の飲食料品で適否を検討中のものもあるが、軽減税率制度が実施されるまでに厳格に適否が決められるだろう。どうやら、軽減税率の線引きは、食品表示法、食品衛生法、酒税法等の法的根拠を持ちつつ、徴税業務上支障が出ないようにできそうだ。

国民の納得が得られるか

とはいえ、素朴な実感として、同じ飲食料品なのに、場合によって軽減税率が適用されたりされなかったりするのは、複雑と感じたり不公平と感じたりするだろう。飲食料品を提供する事業者にとっても、軽減税率の適否をめぐり煩雑な作業をしなければならないかもしれない。軽減税率の線引きは厳格で支障がないとしても、軽減税率の適否について国民の納得が得られるかが今後の課題である。

そして、この軽減税率制度を信頼あるものにするには、インボイス(税額票)が欠かせない。わが国でのインボイス制度は、適格請求書が本格導入される2021(平成33)年度からだが、納税義務のある売り手が買い手から正しく消費税を受け取っていることを示すためにも、売り手が買い手と税務署に渡すインボイスが重要だ。

税務署に提出されたインボイスを基に消費税の課税の適正性が検証されるのだが、それが買い手が持つインボイスと同じ記載であることを確認することで、取引上も正しく消費税が受け払いされていることが確認できる。そして、インボイスを発行する売り手に対しても、消費税をめぐり容易に偽ることができないという牽制効果も働く。インボイスが本格導入されてこそ、消費税制は信頼あるものとなる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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