排出権取引は環境問題を解消する決め手になるのか

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排出権取引は環境問題を解消する決め手になるのか

二酸化炭素など温暖化ガスの排出権取引をめぐる動きが活発化してきた。排出権取引は、温暖化ガスの排出コストを企業に認識させ、その削減に取り組ませることに狙いがある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、今のままだと2100年までに気温は最高6・4℃上昇すると予測する。この抑制には温暖化ガスの削減が必要なのだ。

先行するのはEU(欧州連合)だ。2005年から排出権取引制度を導入済みだが、その基準を国際標準にしようと手を打っている。これが実現すれば、欧州企業の競争力強化にも役立つ。今年1月23日には13年から始める新たな制度を発表した。

現在、EUは「キャップ&トレード方式」の排出権取引制度を進めている。EUが各国に温暖化ガスを排出してもよい上限(キャップ)を割り当て、各国政府はその上限に応じて各企業の排出枠を決める。各企業は排出枠より実際の排出量が少なければ、余剰分を排出権市場に売却することができる。反対に排出枠を上回る排出量となる企業は、不足分を市場から購入しなければならない。

13年からの新しい制度では、企業に割り当てる排出枠のうち60%を公開入札(オークション)による有償とし、20年には全量を公開入札に移行する計画。排出枠の設定段階から企業に削減努力を迫るのが狙いだ。EUは20年までに、温暖化ガス排出量を1990年比20%削減するという自主的な数値目標を掲げているが、その実現の柱と位置づけている。

EU以外の国々でも、排出権取引制度の導入が始まった。ニュージーランドは、今年1月、林業部門での排出権取引を開始。オーストラリアも08年中に排出権取引の制度を定め、10年から制度を開始すると公表している。カナダでも排出権取引の検討が進んでいる。

これらの国々はEUとの関係が深く、カナダとニュージーランドはEUと「国際炭素取引協定」を結び、排出権取引における国際提携を発表している。将来的にEUの基準に収斂していく可能性がある。

一方、最も温暖化ガスの排出量が多く、これまで排出権取引に反対してきた米国も、導入に傾きつつある。昨年12月、リーバーマン・ウォーナー法案が上院で可決。排出枠割り当てを、無償とオークションの組み合わせとする方向で制度導入に動き出している。内容は13年からのEUの方式に近い。ヒラリー・クリントン上院議員もこの法案に賛成票を投じた。オバマ上院議員、マケイン上院議員もそれぞれ別の形だが、キャップ&トレード方式の排出権取引制度を柱とする温暖化対策法案を提案しており、誰が大統領になっても導入される可能性が高い。

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