人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた 川原和子著 ~マンガは人生をおおむね教え、また人生をかなり忘れさせる

人生の大切なことはおおむね、マンガがおしえてくれた 川原和子著 ~マンガは人生をおおむね教え、また人生をかなり忘れさせる

評者 上武大学ビジネス情報学部教授 田中秀臣

 ウディ・アレンの映画に『カイロの紫のバラ』という小品がある。失業中の夫を抱えて生活に苦労している女性(ミア・ファロー)が、映画をみていると銀幕の中から、主人公が飛び出してきて、ひと時彼女とのロマンスを展開する。ところが映画の主人公は、やがて彼女と別れてしまう。ふたたび孤独に陥る彼女だが、それでもフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースの華麗なダンスを、薄暗い映画館の中でうっとり見つめる姿を映して物語は終わる。著者デビュー評論集となる本書を読んで、この映画を思い出した。

この評論集は、幼少の時から現在まで、著者が重ねてきた広範なマンガ体験(少女マンガからボーイズ・ラブまで)をベースに、時に微笑を誘うユーモア、時には真摯な人生の教訓をマンガの世界から引き出すことに成功している。

たとえば、『エースをねらえ!』からは、「男なら女の成長をさまたげるような愛し方をするな!」というグサリと評者(男)に突き刺さる言葉が引用されている。しかし次の章をめくれば、「地味でオタクでなさけない男」が、かわいい女性から、「そーゆーとこ好き」と救済(?)されるマンガに話が引き取られる。読み手に対して、厳しすぎず、また優しすぎず、時には著者自身の結構あからさまな体験談も読ませる。著者は、ひょっとしてマンガのキャラではないか、とさえ思えてくる。本書は乙女心をもつ人でも、また酔っぱらって頭にネクタイを巻く人でも、ともに楽しめるマンガエッセイとなっている。

ウディ・アレンの映画は映画が人生を教え、また人生をひと時忘れさせることを能弁に語ったものだが、本書もまたマンガが人生をおおむね教え、また人生をかなり忘れさせることを能弁に語っている。

かわはら・かずこ
マンガエッセイスト。1968年生まれ。幼稚園教諭、アニメ制作広報等を経て独立。NTT出版Webマガジンにてマンガ時評を連載中。過去の連載に、「恋愛のお手本は、いつも少女マンガ」(日本経済新聞社「SmartWoman」)、「いつも心に少女マンガ」(朝日新聞社「ベルばらKidsぷらざ」)。

NTT出版 1680円 262ページ

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