中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(下)《若手記者・スタンフォード留学記 34》

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 ひとつの象徴的な数字が、中国全体の投資に占める民間投資の割合です。1981~89年には、投資全体の21.4%が、中国の民間企業の投資だったのですが、天安門事件以後の1993~2001年には、13.3%にまで落ち込んでいます。

この「政府系優遇・民間軽視」の流れはいまだに続いていて、世界銀行は、今年の中国の経済成長のうち、4分の3を政府関連の支出が占めると推計しています。中国は一見、民間の活力にあふれたダイナミックな成長を遂げているように見えますが、国産の民間企業はほとんど育っていないわけです。

そして、今回の4兆元(約58兆円)の財政拡大は、”政治が経済を食いつぶす”という中国伝統の病をさらに深刻化させることになるでしょう。公共投資は、短期的にはカンフル剤になっても、中長期的には害の方が大きい。当然のことながら、経済で政府の占める割合が増えれば、汚職が増え、既得権益となっていく。すでに非効率な経済が、さらに非効率になる恐れが強い。

しかも、財政政策はいったん拡大すると、削減するのは難しい。

現在は、中国の財政は健全ですが、これから高齢化が進行すると、医療費・年金のコストが急拡大していきます。アメリカ、日本を見てもわかるように、油断すると、財政赤字は一気に拡大するので、中国の将来もあまり楽観できません。

中国の政治に、大改革を断行する力はないだろう

中国経済のこれからに悲観的な最後の理由。それは、中国の問題点、改善策は明確だけれども、それを実施する力が政治にあるとは思えないということです。

今の体制を変えるには、強力な政治基盤と、抵抗勢力と闘う覚悟が必要ですが、胡錦濤・温家宝コンビ、そして、2012年に彼らの後を継ぐといわれる、習近平・李克強コンビが、そうした条件を兼ね備えているとは思えません。

なぜ今の体制を変えにくいのか。それを理解するにはまず、現体制の基本原理を理解する必要があります。

カーネギー国際平和財団のミン・シンペイ氏は、今の中国の政治体制は、ソ連の失敗を教訓として作り上げた、以下の4つの原則の基に運営されていると指摘します。(出所:”How China Is Ruled”, The American Interest Magazine, March-April 2008)

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