中国経済は、短期中立、中長期では悲観?(下)《若手記者・スタンフォード留学記 34》

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 もうひとつ、中間層を育て、個人消費を拡大するために、富の再分配やセイフティーネットの整備は極めて重要です。ただし、既得権益を握る人間の多くは、貧乏人を助けたり、医療を充実させるより、賄賂が懐に入る、インフラ投資のほうを好むでしょう。

さらに、健全な経済を育てるためにも、汚職の廃止は望ましいのですが、もし本当に賄賂を撲滅したら、既得権益者たちは、共産党への不満分子へと変わりかねません。金の切れ目は縁の切れ目となる公算大です。

結局、エリート間の分裂を避けたければ、民主化や、言論の自由や、汚職の廃止には、踏み込まないほうがいい。だけれども、今の構造が続く限り、健全な経済は発達せず、成長はいずれ鈍化し、エリート層の分け前が減るのみならず、民衆からの反感が高まる。変革するも危険、変革しないも危険--そんなジレンマに、中国政府は直面しているのです。

以上、長くなってしまいましたが、中国にのしかかる幾多のリスクファクターを考慮すると、私は、どうしても中国経済の中長期的な行方について、悲観せざるをえません。

今後10~15年を見据えるたき、私は、以下のようなシナリオが有力だと思います。

「このまま、ズルズルと大きな改革なしに現体制は続き、輸出停滞、内需低迷、高齢化、汚職、民間セクターの低迷、などにより、経済成長率は徐々に低下する。経済成長のパイが縮むにつれ、民衆の不満が高まり、共産党の正当性に傷がつく。と同時に、少ないパイを巡るエリート間の争いも加熱し、磐石だったエリート層の結束が崩れ、イデオロギーの違いによる分裂が始まる。経済成長率も、5~6%での安定は見込めず、ときに1桁台前半に停滞するようになる」

台湾の2012年の総統選挙など、中国の政治経済に大きな影響を及ぼすイベントがあるため、中国の将来予測は難しいですが、今後も随時、新しい情報を仕入れて、いろいろ考えていきたいと思っています。


佐々木 紀彦(ささき・のりひこ)
 1979年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2007年9月より休職し、現在、スタンフォード大学大学院修士課程で国際政治経済の勉強に日夜奮闘中。

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