【ムーディーズの業界分析】日本の航空業界:燃油価格騰勢下でも航空会社の収益力は安定化の方向へ

コーポレートファイナンスグループ
ヴァイスプレジデント – シニアアナリスト 廣瀬 和貞
アソシエイトアナリスト 桜林 潤

概要
 ムーディーズは、この一年の間に全日本空輸(ANA)を格上げし、日本航空インターナショナル(JALI)の格付け見通しをポジティブに変更した。これらの格付けアクションは、相変わらず航空燃料価格の高騰が続き、航空旅客需要も大きくは伸びない、といった厳しい環境の下でも、日本の航空会社が収益力を向上させ、財務を改善させていることを反映したものである。

ANAの格上げ
 2007年7月、ムーディーズはANAの格付けをBa1から投資適格等級であるBaa3へ引き上げた。その理由は、収益性の向上と財務の改善の両面に亘っている。

ANAは2006年3月期に888億円と過去最高の営業利益を計上した後も、航空燃油価格が上がり続ける中、2007年3月期には922億円へと営業利益をさらに増加させた。この増益は、旅客需要が伸び悩む中でも旅客単価を向上させることで売上高を増加させたこと、および、コスト効率の高い新型機材の導入、路便の需要に合致した機材運用の効率化、諸々の固定費の削減により事業コストを抑制したことによって達成された。

このようなANAの収益力向上の背景には、安定した国内市場におけるANAの強固な地位がもたらす価格主導力がある、とムーディーズは考えている。即ち、航空燃油価格の上昇に対しては、適切なタイミングでの「燃油サーチャージ」の値上げによって対応が出来ていることから、ANAの収益に対する圧迫が抑制されている。今後の燃油価格のさらなる上昇に対しても、燃油サーチャージによって、ある程度はそのインパクトを旅客に転嫁できるであろう、とムーディーズは考えている。

財務面でもバランスのとれた運用がなされている。2004年3月期以降、新型機材を中心に年間1,500億円程度以上を設備投資に費やすことで、コスト効率の優れた中型・小型機へとフリートの再編を図ってきた。その一方で、ANAはオフバランスのリース債務を含めた金融債務を着実に削減してきている。加えて、2007年6月にホテル関連の資産を約2,810億円で売却したことで、さらなる設備投資を計画しながら、財務レバレッジの改善傾向を続ける方針である。

JALの格付け見通し変更
 一方、日本航空(JAL)グループは、社内外の様々な要因から収益力の回復が相対的に遅れていたが、2007年9月中間期に567億円の営業利益を計上、さらに2007年12月末までの9ヶ月間に営業利益を825億円まで増加させたことで、収益性の改善傾向が鮮明になった。(なお、ムーディーズが格付けを付与しているのはJALグループ内の最大の航空会社であるJALIに対してであるが、JALグループは事業面でも財務面でも一体として経営されていると見ていることから、分析の対象はJALグループ全体としている)。

JALは「プレミアム戦略」を進めることで、高い旅客単価の個人顧客を重視する方針である。その方針に沿って、ANAと比較すると遅れ馳せながら、機材の再編とそれによる運航路線の見直しという事業戦略を実行し始めた。これらの施策によって、運航席数の縮小を旅客単価の上昇が補って増収となり、また一方で固定費全般が削減されて収益好転に寄与している。

ムーディーズはまた、JALグループが数回に亘って燃油サーチャージを引き上げることで、航空燃油の値上がりを顧客に転嫁できていることにも着目している。これは、JALグループがANAとの寡占航空会社2社のうちの1社であるという、安定的で強固な市場地位によってもたらされたものである。今後、さらに燃油サーチャージが拡大すれば、航空旅客需要にマイナスの影響が出ることもあろうが、JALおよびANAが重視する高単価の個人旅客の需要への影響は限定的であろうとムーディーズは考えている。

JALグループの財務面に関しては、2008年3月に実施される主要取引銀行、商社、石油会社等を割当先とした1,535億円の第三者割当増資の計画が明らかになった。この増資で調達した資金をコスト効率に優れた航空機材の購入に充て、営業キャッシュフローと資産売却で得られた資金は有利子負債の削減に充てる方針であり、これによってJALグループのコスト構造と財務構成は、今後もさらに改善していくであろう。

また、今回の優先株による増資が政府系金融機関をも含めた全ての主要取引銀行に割り当てられていることは、JALグループと日本政府との関係が依然として強固なものであることを示唆しているとムーディーズは考えている。

今後の着目点
 これからの日本の航空業界を見る上でのポイントは、まず、2010年に予定されている羽田空港および成田空港の再拡張に向けた事業体制の整備である。空港の拡張により発着枠が大幅に増えることで、より柔軟性の高い路便の設定が可能となることから、実際の旅客需要に合わせた機材の配備が求められる。その前提として、中・小型機を多く保有することが必要となる。ANA、JALともに設備投資の方向性はこのようなものであるが、実際の機材再編の進捗においては、ANAが大きく先行している。

次に、下げる兆候のなかなか見えない航空燃料単価の動向である。上述の通り、ムーディーズは、基本的に燃料価格の上昇は、ANA、JALともに顧客へ転嫁することが可能であると見ている。また、両社の重視する高単価の個人顧客にとって、運賃の値上げは相対的に問題となりにくい。しかし、今後も速いペースでの価格上昇が続いていくことになれば、航空旅客需要を大きく減退させる可能性もあろう。

同じく、米国に始まる景気の後退が世界の他地域にまで及ぶ場合、航空旅客需要の動向に注意が必要となることもあり得よう。但しムーディーズは、ここでも、ANAやJALが主要なターゲットとする運賃単価の高い個人旅客ないしはビジネス顧客の需要は、相対的に景気変動の影響を受けにくいと考えている。

最後に、航空会社の運賃設定に関する価格カルテルの疑いが米欧当局から持たれていることに関連して、もし仮に多額の制裁金が日本の航空会社に科される可能性が高まれば、注意が必要となろう。


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