言論の自由の限界は、法律では決められない−−イアン・ブルマ 米バード大学教授/ジャーナリスト

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リチャード・ウィリアムソン司教は嫌悪すべき見解の持ち主である。「第2次世界大戦中にガス室で殺戮されたユダヤ人は存在しない」とか、「2001年9月11日に世界貿易センタービルは突入した飛行機ではなく、米国の爆弾によって破壊された」「ユダヤ人は“エルサレムに反キリスト教王国”を建設するために戦っている」などと言ってはばからない。

ローマ・カトリック教の基本原理に関しても、同司教はバチカンの考えから逸脱しており、1988年に破門されている。ファシストの同調者であるフランス人、マルセル・ルフェーブル氏が設立した超保守派の聖ピウス十世協会の立場に近い。

同司教はベネディクト法王によって教会への復帰が認められることになっていたが、スウェーデンのテレビ番組での発言で復権の可能性はなくなった。同司教はアルゼンチンから追放され、ホロコースト(ユダヤ人虐殺)を否定したために同司教を告発しようと待ち構えているドイツへ送還されるかもしれない。

もう一人の人物、オランダの国会議員ガート・ワイルダース氏の例を考えてみよう。同氏は以前英国でイスラム教をテロリスト宗教であると主張する短編映画『フィンタ』の上映を計画したため、現在は英国への入国を禁止されている。本国のオランダでは、イスラム教徒に対する“憎悪を広めた”という罪でアムステルダムの裁判所で裁判が行われている。同氏はイスラムの教典『コーラン』をヒトラーの『我が闘争』に例え、イスラム教徒のオランダへの移民を中止するよう訴えている。

オランダでの裁判と英国への入国禁止によって、逆にワイルダース氏はオランダで人気が高まっている。世論調査によれば、同氏が所属する反イスラム政党PVVは、今選挙をすれば議会で27議席獲得するという結果が出ている。人気が驚くほど高まっている理由は、同氏が言論の自由のために戦う戦士のイメージを作り上げるのに成功したからである。

忌むべき思想の持ち主に自由に発言させるべき

言論の自由は民主主義の基本的な権利の一つで、私たちはどんな嫌な意見でもある点まで受け入れなければならないことを意味している。問題は何が「ある点」か、ということである。

言論の自由に関する法律は国によって異なる。ドイツなどではホロコーストを否定すると刑法違反となる。他の国でも暴力や嫌悪を扇動することを禁止する法律がある。オランダなどでは、人種や宗教を根拠に人々を攻撃することは法律で禁止されている。

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