経営者のための経営情報サイト for THINKERS

sponsored by accenture

< TOPページに戻る

2018/7/20

世界的経営学者、野中郁次郎が語る
今なぜマネジメントにリベラルアーツが
必要なのか Vol.4
経営者がどのような哲学を
持っているのかが問われている

< 第3回はこちら

人が発する言葉は、その人の哲学や思いに基づいており、最終的にはその人の生き方そのものを表すものとなる。だからこそ、経営者はどんな言葉で語るのか。どんな哲学を持っているのかが問われる。それが劣化している今、アートとサイエンスのバランスをとることが、あらためて必要になっている。

「自分の主観」から
「私たちの主観」へ

私たちが意味を見いだすために必要なこととは何でしょうか。

野中意味というのは、どこから生まれるのか。それは共感から生まれるのです。「私」と「あなた」が全人的に向き合いながら、知的バトルを行った結果、「そうだよね」と同意したり、「それは違うよ」と反論したりする過程で、物事の認識が深まったり、新しいことを発見することができる。お互いの主観をぶつけ合い、その類似性や相違性がわかったときに意味が生まれるのです。ですので、新しい意味を発見するには、いかに相手と共感をつくっていくかが重要になってきます。

言い換えれば、一人ひとりの「自分の主観」が「私たちの主観」に変換されたときに初めて意味が生まれるのです。お互いの本質を直感し合いながら、意味と意味をぶつけ合って、共通の意味を見いだしていく。これが共感です。そして、それを実践することで、絶えずより良い判断を追求していくことが重要になるのです。

その意味では、トライ&エラーを繰り返すことが大事だと言えますね。

野中最初から物事を理屈で構想し、一般的な理論や法則を基に結論に落とし込んでいくやり方は、間違いではありませんが、現在の絶えず変化し続ける現実に対しては効果的ではないように思います。むしろ、今の時代に必要なのは帰納的に考えることです。

帰納的とは、個別具体の中から普遍化を目指す思考法です。「絶対」がありえない今の時代の中、一般的な概念でとらえることのできない特殊なケースなども加味することでできるアプローチだとも言うことができるのではないでしょうか。

さらに言えば、演繹的に考えていては、思い切って新しいアイデアに飛ぶような発想が出てきにくいのです。むしろ、今は一つのカテゴリーにこだわらないで、過去・現在・未来について考え、あらゆる自分の経験、今そこにある現実、あるいは未来のSFも使いながら、発想を膨らませていくことが必要なのです。事象の背後にある本質直感を他者と共創しつつ、集合本質直感に昇華するリーダーシップが問われているのです。

意味や価値は、
人間の生き方そのもの

ブラックスワンが訪れるような予測不可能な時代の中で、リベラルアーツをどう生かしていけばいいのでしょうか。

野中2013年、イギリスの国際政治学者であるローレンス・フリードマンが Strategy : A History という大著を出しましたが、その本の面白いところは、聖書から始まって、軍事、経営までをレビューして、戦略とは何かを問うていることです。

そこでフリードマンの考えた戦略論の結論とは、究極的に戦略は物語的であるということです。絶えず現実は変化しており、変化に応じて物語を変えていかなければなりません。その戦略的物語は例えてみれば、ソープオペラ(連続メロドラマ)であるのです。

戦略は絶えず次のステージに発展することがあっても、決定的で恒常的な結末があるわけではありません。それは生き生きと変化する現実の中で、敵に勝つための力を獲得していくプロセスであり、そのとき重要になってくるのが、「意味」や「価値」なのです。しかも、それらが、できるかぎりステレオタイプに陥らないように、論理的に修正し、その場ごとの特質性を取り入れながら、賢明な判断をしていく。そのために必要なのが、リベラルアーツなのです。

リベラルアーツとは結果として人間の洞察力を磨くことになるのですね。

野中意味や価値は、つまるところ、人間の生き方そのものなのです。その人の「哲学」や「思い」と言ってもよいでしょう。思いを言葉に、言葉を形に実践していく。また、情報から知識、そして知識から知恵に発展させる。哲学や思い、知識や知恵を体で体現していくことが必要なのです。

その意味で、経営者が、どのような哲学を持っているのか、そうしたことが今問われている時代だと思います。人間が持っている生き生きとした直感や共感、そうした感性が今、どんどん劣化しているように見えます。だからこそ、リベラルアーツを学んだり、経験を体に蓄えることによって、直感や共感、感性を磨いていかなければいけないのです。

AD

RECOMMEND

東洋経済のメルマガを購読する