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2018/7/6

世界的経営学者、野中郁次郎が語る
今なぜマネジメントにリベラルアーツが
必要なのか Vol.2
イノベーションに必要なのは、
アブダクションである

< 第1回はこちら

ビジネスパーソンのリベラルアーツを底上げする。それは、新しい意味や価値を生み出すイノベーションにもつながっていく。イノベーションは、同じ知のカテゴリーから、思い切って飛ぶことから生まれる。これを「仮説形成」=「アブダクション」という。そこに必要不可欠なもの。それがリベラルアーツ=教養なのだ。

同じ知のカテゴリーから
いかに飛び越えるか

経営者やビジネスパーソンが物語の能力を鍛えるためには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。

野中そもそも何かをうまく物語るには、まず物事や人と人との関係性というものを把握しなければなりません。たとえば、私たちが直感したものをすべて統合させて、ある種の物語として展開していく場合、その関係性を、極めて主観的なアプローチから、お互いの主観を、共感を通じて、より客観的に合意形成していくということが必要になります。

さまざまな主観を総合して、客観的な意見や考えにしていくということですね。

野中しかし一方で、主観的経験だけに終始しないということも重要です。ありとあらゆるものを分析して、細分化して、数学的に説明していく科学的アプローチに対して、主観的なアプローチは、どうしてもバイアスを持ってしまいがちです。

だからこそ、見る対象をセレクトしながら、その範囲の中で関係性を広げて説明していくことが重要なのです。その意味で言えば、イノベーションは、新しい意味や価値を生み出すプロセスを必要としますが、基本はボトムアップ(=個別具体的なものから普遍を目指す)的なものになります。

ところが、イノベーションを実現するには、もっと大事なものがあるのです。それが同じ知のカテゴリーから、別の知のカテゴリーへと思い切って飛ぶことなのです。つまり、一見すると関係がなさそうな二つの知をつなげて新しい知を創ることが可能なのです。

これを「仮説形成=アブダクション」と言います。この「アブダクション」の力を磨いていくには、「教養=リベラルアーツ」が必要なのです。いろいろな領域の教養をベースにしておくことが、豊富なクリエーティビティにつながっていくのです。

全体最適の中で最適解を見つける

最近、経営者の間でも「アブダクション」の重要性が叫ばれています。

野中たとえば、ホンダ エアクラフト カンパニーが開発した小型ビジネスジェットは、翼の上にエンジンを載せるという革新的なイノベーションを実現しました。その発想はどこからきたのか。それは、徹底的に既存の飛行機のコンセプトを疑って、「どうすれば改善できるのか」ということを何度も何度も突き詰めて考えた結果、出てきたアイデアなのです。

その大きなヒントになったのは手作りで飛行機をつくり続けた経験と、飛行機の本質をとらえるのに適している、古典的な航空工学に基づく機体の計測方法との出合いでした。翼の上にエンジンを置くという理想形態を基に考えたときに、飛行機全体でどうバランスを取るのか。つまり、全体のバランスの最適化を目指してつくられたものなのです。

どういうことでしょうか。

野中ここで重要なことは、徹底的に論理的に考えることをやりながらも、胴体とエンジンと翼と、それぞれを分業で行い、部分最適を目指すのではなく、その全体像を把握することに努めたことが大きいと思うのです。エンジン、胴体、翼を個別に考えるのではなく、一つにまとめて考えたことで、アイデアがひらめいたのです。エンジン、胴体、翼の三つの関係性を基に最適解を導き出す。三つの関係性の中で、矛盾点を一つひとつ潰していくことで、この小型ビジネスジェットは成功したのです。

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