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2018/7/20

デジタル化時代のビジネスは
顧客との「価値共創」が重要になる Vol.1
バリューチェーンの先に
あるものとは何か

今、デジタル化の波がビジネスのあり方を大きく変えつつある。これまで見向きもされなかった分野から新しいビジネスが生まれ、そこからさらに新しいビジネスが派生する。デジタル化がビジネスの前提を変えることで、ビジネスの未到の地は今まさに広がりつつあるのだ。そうした中、いかにチャンスを見つけ、ビジネス化していくのか。そのヒントを一橋大学大学院経営管理研究科准教授の藤川佳則氏に語ってもらった。

ビジネスの価値づくりの
前提がガラリと変わった

18世紀後半にイギリスで起こった第1次産業革命から250年余り、21世紀に入って、ドイツ政府が国を挙げたプロジェクトとして打ち出した「インダストリー4.0」などを契機として、多くの企業がより自覚的にデジタル化への動きを加速させているように見えます。経営者はこうした新しい状況をどのように判断すればよいのでしょうか。

藤川最も本質的な変化は、ビジネスにおける「価値づくり」のあり方が大きく変わってきたということです。それはいったいどういうことなのか。

たとえば、ライドシェアサービスやSNS、宿泊サイトの企業に注目が集まっており、お金も人材もデータも集まってきています。なぜでしょうか。

これまで私たちは知らず知らずのうちに、モノづくりをベースとした価値づくりを前提としてきました。経営についてのフレームワークやモデル、コンセプトもそれを前提に発想し実践してきた。しかし、その前提が今、根本的に変わりつつあるということなのです。

デジタル化の進展に伴って、価値づくりの前提がガラリと変わったということですか。

藤川私は、見方や視点のことを「レンズ」という言い方で表しているのですが、これまで私たちが慣れ親しんできた「レンズ」としては、価値づくりと言えば、すぐに「バリューチェーン」というフレームワークを思い浮かべる方が多いのではないかと思います。

バリューチェーンとは、組織の中で川上から川下までヒト・モノ・カネの経営資源をうまく組み合わせながら価値を創造する活動の流れをとらえるフレームワークですが、顧客に商品やサービスを提供するところが終点です。

販売時点以降は「空白部分」ですので、その先では価値づくりが行われていないという前提を置いていると言えます。また、価値をつくるのは、これまでモノやサービスを提供する側であるという前提も置いています。しかし、デジタル技術の進展に伴い、その前提が大きく変わりつつあるのです。

バリューチェーンの先にある空白部分については、今のところ、体系立った知見はありません。しかし、これまで私たちが掛けていた「レンズ」をそのまま掛けたままでは、見るべきものも見えなくなりつつあります。

今までのレンズでは
すべてがとらえられない

なるほど。既存の視点で今のビジネスの変化を見ては駄目だということですね。

藤川そうです。さらに言えば、企業における業界の境界線もなくなってきています。これまでは自分の会社がどの業界に属しているのかを定義できれば、そこから業界の構造を分析することができました。自分たちが競合相手に対して、どのようなポジショニングを取ればよいのか。戦略を構築する論理的なステップがありました。

しかし、いまや業界の定義自体が難しくなりつつあります。今最先端にある企業は、もはやどの業界に属しているのか、定義をすること自体が難しい。逆に言えば、どんな業界に属しているのかわからない企業やビジネスにこそ、新しい機会が生まれていたり、新しい価値づくりのモデルが生まれたりしているのです。

業界が区別できないようなところに、新しい価値が生まれているということですね。

藤川以前なら、それぞれの業界が明確に定義できることを前提として、それを対象に分析を進めていくと、経営戦略やマーケティング戦術を組み立てることができると考えられてきました。しかし、これまでの前提が崩れてしまったがゆえに、慣れ親しんだコンセプトやモデルをそのまま使うことは注意を要するようになりました。そうした概念や枠組みが意識的にも無意識的にも置いているさまざまな前提が覆り始めているからです。

藤川 佳則一橋大学大学院経営管理研究科准教授

1969年京都府生まれ。一橋大学経済学部卒業後、同大学大学院商学研究科修士課程修了。ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得後、ペンシルバニア州立大学Ph.D.。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師、コンサルティング会社のオルソン・ザルトマン・アソシエイツなどを経て、2007年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授。現在、一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻准教授・MBAプログラムディレクター、および、一橋大学副学長補佐を兼任。専門はサービスマネジメント、マーケティング、消費者行動論。主な著作に『マーケティング革新の時代』(共著、有斐閣)のほか、『マーケティング・ジャーナル』やHarvard Business Reviewなどにも執筆。

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