人体の陰の支配者?「腸内フローラ」の実体
便秘、肌荒れ、肥満、花粉症、精神にも影響
「第二の脳」とも呼ばれ、ここ数年でにわかに注目を集めている臓器、「腸」。
全6回の連載となる第1回は、近年ブームとなっている「腸内フローラ」(腸内細菌叢)に着目し、
その仕組みとともに、腸内フローラを良好に保つための“強力な味方”を紹介する。
制作 東洋経済企画広告制作チーム
健康の鍵は「腸内フローラ」にあり
順天堂大学
佐藤信紘 名誉教授
近年、腸にまつわる健康法を耳にする機会が増えているが、体を資本とするビジネスパーソンにとっても腸の働きは無視できないものだ。なぜなら、腸の活動は人間の健康と密接に結び付いており、腸の状態を整えれば、人間を襲うさまざまな症状を予防できる可能性もあるからだ。
その中でも大事な存在が、大腸を舞台とする「腸内フローラ」。人間の腸には数百種類・100~1000兆個の細菌がすんでおり、こうした多種多様な腸内細菌の群れを「腸内フローラ」と呼ぶ。消化器内科学を専門とし、腸内フローラ研究講座を持つ順天堂大学・佐藤信紘名誉教授は次のように話す。
「大ざっぱに言うと、人間は食物からエネルギーをとるわけです。胃で食物をためて一部を消化し、小腸で消化・吸収し、大腸でカスを排出するという仕組みです。以前から大腸の働きは排出するだけではないと考えられていましたが、その実体はつかめていませんでした。それが、2000年以降に次世代シーケンサーという高速で遺伝子解析ができる装置が登場したことで、腸内フローラに関する論文が世界中で次々と発表されるなど、多くのことがわかってきました。たとえば、大腸にすむ腸内細菌が侵入してきた有害物質を排除したり、残りカスからビタミンやエネルギーを産生したりと、体にとても有益なことをしてくれていることがわかってきたのです」
腸は、第二の脳?
では、腸内フローラにはどんな機能が備わっているのだろうか。
腸内には人間の体に有益な働きをする善玉菌や、有害物質などを作り出す悪玉菌がすんでいるが、まだ機能が明らかにされていない細菌も数多く存在している。
善玉菌は腸の調子を整えて食べ物の消化吸収をよくしたり、免疫力を高めたり、さらには体に必要なビタミンや有機酸を生成したりする。善玉菌の代表例は、ビフィズス菌や乳酸菌だ。悪玉菌は体に有害な毒素や腐敗物質を産生し、便秘や下痢を引き起こしたり、免疫力を低下させたりする。悪玉菌の代表例はウェルシュ菌、サルモネラ菌などだ。
「もともとこれらの腸内細菌同士は個々人に応じた絶妙なバランスを保っていて、そのバランスを維持することで健康が保たれていると考えられます。逆に肉食偏重などの偏った食事や、不規則な生活、ストレス、抗生物質の濫用などで腸内細菌のバランスが乱れて悪玉菌が増えると、腸が炎症反応を起こし、それがさまざまな病気や不調を引き起こすのです」(佐藤教授)
最近では、便秘や下痢、肌荒れはもちろんのこと、肥満、花粉症、アレルギー、糖尿病、大腸がんまでもが、腸内フローラのバランスの乱れと密接に関係していることが認められている。佐藤教授が言及する「不規則な生活」、「偏食」、「ストレス」は戦うビジネスパーソンの象徴ともいえるが、そうした習慣を続けることで腸内フローラのバランスが乱れ、取り返しのつかない疾病を引き起こしかねない。
さらには驚くべきことに、腸の状態は、脳や心にも大きな影響を及ぼすという。これこそが腸が“第二の脳”と呼ばれるゆえんだ。
「腸は脳から指令を受けずとも単独で動くことができ、神経系、免疫系、内分泌系をコントロールできると考えられています。それは“腸管神経系”という独自のネットワークを持っているためです。また単独で動くだけでなく、腸と脳とは密接にリンクし合っていて、たとえば腸内フローラで産生される酢酸や酪酸は、心を元気にする交感神経系を活性化させます。逆に腸内フローラのバランスが崩れると、脳に不安感がもたらされると言われます。古くから“腹が立つ”や“腹に一物を抱える”“腹が据わっている”という言い回しがあるとおり、日本人は何百年も前から腸と心がつながっていることを実体験からわかっていましたが、それが技術の進歩で科学的に実証されるようになってきたというわけです」(佐藤教授)
腸内フローラの主役はビフィズス菌
では、そんな大切な腸内フローラをいい状態に保ち、ビジネスパーソンが日々フルパワーで仕事に臨むには、どうすればいいのだろう。
まずはやはり規則正しい生活をすること。生活リズムが狂うと食べ物が腸に滞留する時間も狂い、エネルギーの獲得がうまくいかなくなる。特に腸による消化は睡眠時に活性化されるので、睡眠時間の確保は大切だ。
偏食を避けることも重要だ。特に偏った肉食は悪玉菌を増やしやすいので注意が必要。逆に努めてとりたいのが、食物繊維だ。食物繊維は善玉菌のエサとなり、発酵によって腸内が酸性に傾くことで悪玉菌の増殖を抑え、より善玉菌が活動しやすくなる。また食物繊維は途中で分解・吸収されず大腸にそのまま届くため、悪玉菌が産生する腐敗物質を絡め取って便と一緒に体外に排出してくれる。
さらには、腸内フローラを理想的な状態に近づけるのに強力な味方となってくれるものがある。ビフィズス菌である。
ビフィズス菌というのは耳慣れた言葉だけに、「今さら?」と感じる人もいるかもしれない。しかし、実は腸内フローラの善玉菌のほとんどがビフィズス菌であり、大腸内における乳酸菌との割合はなんと、ビフィズス菌99.9%に対し乳酸菌0.1%※。したがって腸内フローラの悪玉菌を抑えるには、ビフィズス菌が圧倒的な主役となるのだ。またビフィズス菌は腸内で乳酸と酢酸を産生するが、この酢酸はエネルギー源となるだけでなく、非常に殺菌作用が強いために悪玉菌を退治する作用まである。
ビフィズス菌入りのヨーグルトを選んでとるのもいいし、最近はサプリからとることもできる。
体の中に100兆個もの細菌=生き物を抱える器官は、腸内フローラの舞台である大腸以外には存在しない。その腸内フローラでは菌同士が互いにバランスをとりながら共生を図り、またそんな細菌たちと宿主である人間が互いに補完し合いながら共生している。
「フローラ」とは「お花畑」の意で、多種類の菌が花畑のように群生する様子から名づけられた。花に水やりをするように、普段から腸内フローラのメンテナンスをしておきたい。
※乳酸菌をLactobacillus(乳酸桿菌)に限定した場合
参考:ビフィズス菌研究所